――ヒカリ自身は、ちょっと周囲から浮いてはいても、いい絵が描けることで千晶からも認められて、自分に自信を持って強く生きていますよね。
●古屋 やっぱり自分の武器みたいなものを精いっぱい生かせることが、一番その人にとって幸せなことじゃないですか。例えばですけど、もし僕が鉄道オタクだったら……かわいい女の子に「私も電車が好きなんだ。ちょっと電車のこと教えてよ」みたいに言ってもらって電車のことでヒーローになっていくことができたら、一番じゃないですか。だから鉄道オタクは鉄道でヒーローになりたいわけだし、僕は中高生のとき絵が好きだったから、「絵でモテないかな〜」とか思うわけですよ(笑)。そういう、ある種のまあ願望ですよね。
――程度に差はあれ、この世の中で自分なりに楽しく生きていくには「自分にはこれがあるから大丈夫だ」って思えることがあるととてもいいよ、ということが伝わってきます。ピカソ以外の子たちも、みんな必死で自分にできる何かを探して生きている。
●古屋 そうですね。自分の特技を生かせるとか、もしくは自分の性質、自分がこういう人間だっていうのを周りに認めてもらえることは、生きていくうえで大切だと思う。先月、今月と描いてきた菱田君にしても、性同一性障害というものを自分の中で肯定できないから苦しんでいるわけで。それでいいということをだれかに肯定してもらいたかった。歌がうまい人は「何か自分、歌がうまいみたいだぞ」と思ったら、それをまわりに認めてもらいたい。僕は、絵で自分を認めてもらいたいから、美大を目指した。美大に入れば美術の仕事につけるかもしれないと思ったし、そうしたら、まあ自分の絵が認められたことになるわけじゃないですか、社会に。だから、何としても美大に行きたいという気持ちが強くなっていきました。『ピカソ』ではもともと孤独な少年だったピカソ君が、絵を描くことを武器にしていくうちに、だんだん他人とつながっていくようになる、というか……そこが一番描きたいところですね。
――何か一つのことを突き詰めると、一見世界が狭くなっているように見えるのに、実は世界が広がっていくというか……。
●古屋 そう、世界が広くなるんです。例えばコスプレをずっとやっている人は、コスプレを通じて人脈が広がっていくし、鉄道オタクはただ鉄道をじーっと眺めているイメージだけど、実はそうじゃなくて、鉄道仲間がいたりとか、その世界は広い。だから、好きなことを突き詰めると、結局一人じゃなくなる。やっぱり僕自身の体験からですね。中学生ぐらいのときはあまり人から認められなくて、でもそれでも描いていたら、絵が好きな友達が一人、二人と増えていった。本来絵なんて一人で家の中でコツコツ描く、地味な作業じゃないですか。だけど、ずーっと描き続けていれば、人とつながっていって、いま結局漫画という形になって、こうやっていろんな世界の方たちと知り合えたりする。『ピカソ』は、単純に楽しめる物語というのとはちょっと違うのかもしれなくて、メッセージ性みたいなものは込めているつもりです。
わかりづらいものは嫌い!エンターテイメント性は必要
――さきほどお話に出ていた『ライチ☆光クラブ』もそうですし、古屋先生の作品にはエロティックなもの、グロテスクな表現を使った作品もたくさんあって表現の幅が非常に広いですよね。『幻覚ピカソ』で古屋先生を知った読者にとっては新鮮に映るかもしれません。
●古屋 『ピカソ』をきっかけに、過去の作品に戻って読んでくれる人もいて、それはとてもうれしいですね。びっくりした、という感想もありますが、よかった、と言ってもらえることも多い。『ピカソ』を読んでピンときたり、ピカソくんの気持ちがわかるという人なら、同じ感覚を持ってくれているということなので、きっとほかの作品を読んでも賛同してくれるんじゃないかと思います。
――一見、アート色が強そうな作品も、実はマンガとしてのエンターテイメント性はきっちりと保たれています
●古屋 僕、わかりづらいもの、考えさせるものが嫌いなんです。映画でも、難しくて眠くなってくるような、実験的なものは好きじゃない。こっちに解釈させるってどういうことだ!って思う(笑)。大学生の頃はどういう意味なのか解釈しながら見るような映画もそれが楽しかったんですが、今は脳が老化したのか、すぐ眠くなる(笑)『ライチ☆光クラブ』なんかは重々しくて手に取りづらいかもしれないですけど、読んでみたら少年たちの単純な性行動を描いた話なんですよね。かわいらしい話だと思います。
これからは「最後の10年」のつもりで頑張ります!
――これから先、また描いてみたいものはありますか?例えば、少年ではない主人公だとか……。
●古屋 どうでしょうね。大人を描きたくなるかもしれないし、今のところはわからないです。主人公をもっと、おじさんにとか……うーん。今のところはあんまり想像がつかない(笑)。いつか僕も谷口ジロー先生みたいになれるのかな。
――渋い中年男性を主人公にした作品を多くお描きになる漫画家さんですよね。
●古屋 そう、こう、いい感じに枯れた作風の素敵な漫画を描く作家さんでファンなんですけど、そういう漫画がかけるようになるのかなぁ。
――小畑健先生との対談で「50歳でリタイア」、というようなことをおっしゃってもいましたが。
●古屋 あくまでも「つもり」なんですけど、大体漫画を描いていられる年齢が50歳くらいじゃないかなって僕は勝手に思っていて。もちろん50歳以上でも、たくさん描いている作家の方はいっぱいいらっしゃいます。谷口先生もそうだし、丸尾先生も、大尊敬している諸星大二郎先生も、みなさん60歳前後だと思うんですけど、いまだにコンスタントに描き続けている。僕もそういう先生方のようになれたら、それはすごくうれしいことなんですが、今の僕にとっては、50歳が作家としての区切りの年だと。今41歳だから、これからの10年を、まあ最後の10年ぐらいのつもりで一所懸命やらないとな、ということですかね。でも、こういうことって作家の方だったらみんな思っていることだと思うんです。自分に作家として残された時間はこのくらいじゃないかな、というところを考えるものだと思う。
――漫画制作は、本当に作業量も多いですし、物理的に体を酷使する仕事ですから……
●古屋 そうですね。いまは状況が許す限りペースを落とさず頑張って描いていきたい。とりあえずは、連載中の作品に集中しています。新しい作品のことも、浮かんでいない。次の回の『ピカソ』をどうするかで、頭のメモリを全部使っています(笑)。
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