――では帰ってからすぐに新作を描いたんですね。
●上野 そうです。でもそのころ全財産が2000円になっていたんで、日払いの、キャバクラのボーイをやりながら描いてたんですけどね。
――それは楽しそうですね。
●上野 楽しくなくはなかったですけど、日払いというところが大事でした。ここも4か月ぐらいたった時に主任をやらされそうになったので、辞めました。
――バイトにのめりこみそうになっても必ず漫画に戻ってくる。
●上野 そうですね。新作を描いている時に、さっき言った受賞の電話がかかってきたんですよ。でも新作は新作で、別のところに持ち込みに行きました。
――そこで初めて「SQ.」に。
●上野 はい。その時は「SQ.」含めて全部で4誌回りました。その中で一番ほめてくれたのが今の「SQ.」の担当さんです。
――そうだったんですね。それが先ほどおっしゃっていた『長谷部さんのいる野球部』の原型みたいな野球漫画ですか。
●上野 そうです。主人公の名前も、その時から長谷部羽流でした。シリアスを基調にして、時々ギャグも入るコメディーで。前回の持ち込みでギャグをボロクソに言われたので、じゃあ、と思って試しに描いたシリアスが自分でも鳥肌がたつくらいの出来で(笑)。「シリアスはないわ」と思った。ギャグもシリアスもだめ……とわかったので、そういうスタイルに落ち着きました。
――なるほど。作風も今の感じに近いですね。でもデビューは、その作品ではないですよね。
●上野 担当さんに、「手塚賞」が登竜門だよと言われたので、また新作を描いて応募して。それが佳作をとった『ホレホレホロウ』です。
――そこでデビューですね。ご家族にも喜ばれたのでは。
●上野 実はですね……そのころ、親父が病気で入院していたんです。入院中も「おまえは漫画をやれ」みたいなことをずっと言ってくれてたんですよね。本当に病状が悪化してきた時にデビューが決まったんです。
――そうだったんですか。
●上野 全部読む気力はなかったみたいですけど、最初の作者紹介ページだけは見て、看護婦さんたちに「これうちの息子が描いたんや」って見せていたらしいです。その1か月後に亡くなったんですよ。最後にデビューしたことを見せることができてよかったんですけど。
――お父さん、本当に喜んでいらっしゃったでしょうね。
●上野 はい。なんだかんだ言って、それまでは僕も本気になり切れてなかったような気がするんです。でも親父が亡くなったことで、100%本気のスイッチが入った。連載は見せられなかったけど、マジでやって、絶対連載するぞ!と。気付くのが遅すぎましたけど。
――でもきっと、デビューした時点で、お父さんは「この先も大丈夫だ」と安心されたのでは。
●上野 そうですね。連載が決まったときは、写真の親父に手を合わせました。親父のおかげで決まったようなものですからね。
――本気のスイッチを入れてくれたお父さんですもんね。
●上野 はい。100%ぎゅーんとスイッチを。
SOUL‘d OUTネタたくさん入れてます
―お仕事中に音楽をかけたりはしますか。
●上野 そうですね。かけてないと、ちょっとやりづらいですね。無音はちょっと……。
――あ、沈黙が苦手ということでしたもんね(笑)。何を聴くことが多いですか。
●上野 よくぞ聞いてくれました! SOUL‘d OUTが大好きなんです!!さすがにアシスタントさんがいるときに、SOUL‘d OUTばっかりでもあれなので、ローテーションしてますけどね。
――本当はずっとでもいいんですね。
●上野 実は『ホレホレホロウ』のときからずっと、漫画の中にSOUL‘dOUTのネタが入っているんですよ。
――あ、そうなんですか!
●上野 わかる人にしかわからないと思うんですけど。『ホレホレホロウ』だったら、リュックのマークだったり。よく「SO」って入ってます。
――あ……本当ですね!
●上野 『ドM‐ANZAI!!』にはかなりふんだんに入ってます。ちょっと遊び過ぎたというくらい入れてしまいました。
――どなたかに気づかれました?
●上野 SOUL‘d OUT好きの仲間には気づかれました。「たくさん入ってるね」と。
――本当にお好きなんですね。
●上野 はい。カラオケに行っても歌います。
――カラオケで! 難しそうですが。
●担当 めちゃめちゃうまいですよ。
――おお! すごい。でもそんなに好きな曲が仕事中にかかっていたら、楽しくて気持ちがそちらにいってしまうとかはないんですか。
●上野 それはないです。ヘッドフォンで音楽を聴きながらしゃべったりとかもできますんで。
――音楽があっても、やっぱり常にしゃべりたいんですね(笑)。
「絵」じゃなくて「キャラ」で見せていきたい
――今まで『長谷部さんのいる野球部』の連載3回を振り返って、このシーンは特に気に入ってる、というのはどこですか。
●上野 トルネード投法のシーンは自分的には好きなんですけど。
――格好いい絵でした。
●上野 読み切り版のときにも、同じような縦ぶち抜きのコマで1回描いたんですけど、後から見ると何かしょぼいなって思ったんですよ。角度的にもトルネードってわかりずらかったなと思って。もっと体をひねった状態の絵に変えました。
――あ、なるほど。比べてみると確かに連載版のほうが断然いいですね。満足のいくトルネードが描けたと。
●上野 そうですね、個人的には。
――今後の『長谷部さんのいる野球部』について教えてください。恋愛要素も入ってきたりするんですか。
●上野 うーん、そういう要素も入れたほうがいいかなとは思いますけど、メインにはならないと思います。特に逆ハーレムみたいにはならないようには気をつけてますね。長谷部は恋愛に興味はあるけど、野球以上に魅力を感じる男の子はまだいない、という感じなんじゃないでしょうか。そういう人が出てきたら、恋愛もするんではないかと。
――「野球以上の男子」ですか。それはすごく納得感がありますね。
●上野 3話でちょっと、そういう部分を出しました。
――では最後に、読者の方に何かメッセージをお願いします。
●上野 そう言われるかなと思ってはいたんですけど……うーん。「飽きずに見てください」としか言えないですね。
――飽きないようなものを描きますよ、という宣言でもありますね。
●上野 そういうものを描きたいですね。自分では「絵」じゃなくて「キャラ」で見せるタイプの漫画だと思っているので、嫌われるか好かれるかの両極端だろうなとは思っています。だから、嫌いな人には好きになってくれとは言わないですけど、「こういう野球漫画もあるんだな」くらいのことは感じてもらえたら嬉しいです!
|