ジャンプSQ.若手作家が聞く「マンガの極意!」助野嘉昭 先生 & 仲英俊 先生

《1》助野流ネームの作り方!

仲英俊先生(以下、仲):今回は宜しくお願いします。助野先生にはアシスタントとして長い間お世話になって今更ですが、読者も意識して改めてお聞かせ下さい。ではまず、ネームの制作過程について教えて下さい。最初はどのように作られますか?

助野嘉昭先生(以下、助野):まちまちだけれど…少なくともネームの時にはシーンとか台詞とか、読者に見せたいビジョンがあって、そこに向かって作る感じ。ネームの時点ではあまり迷いはないですね。

仲:最初にゴールを決めているということですね。では新連載とか、何も決まっていない時はどうされるんですか?

助野:新作でもお話や出したいキャラなど、何かしら描きたいものは必ずあるので、そこから広げていく感じです。逆にそれがないと何も描き出せない。実は『貧乏神が!』(以下、『貧乏神』)の連載で、「牡丹編」だけ結末を決めないまま描き始めて…。そのシリーズだけすごいしんどかった覚えがあります(笑)。

仲:ネームはコマ割りから描かれますか?

助野:まずはプロットというか、脚本。本当にドラマの脚本みたいに、キャラ名と台詞を最後まで描き出します。それができたら1話45ページを一気にコマ割りして、その次に45ページ全部のフキダシと台詞を書き、最後に45ページ全部に絵を入れる…という順で作ります。少しずつ進めることができないので、工程ごとに分けて集中して描きます。

仲:ちなみにネームは、作画の段階で変更されることはありますか?

助野:細かい演出は変わるけど、少なくともネームの大幅な変更はないです。僕は新人の頃、同じネームを10回以上直したことがあって、それでノイローゼになっちゃったんです。その苦しさを経験しているから、ネームを直さないで済むように手を尽くす!もちろん何度も何度も直してクオリティを上げていく作家さんもいるので、あくまで僕の描き方だけど。

仲:では、ネームの段階ではあまり迷ったり考えたりはしないのですか?

助野:迷うのはほとんどプロットの段階ですね。一番最初に考えを巡らせて、脚本で台詞も全部決めて…そこまでは迷いまくり(笑)。でも脚本が上がった段階で僕の中では7割方完成、コマ割りネームまで上がったら9割終了です。あとはフキダシを描きこんで、担当さんに見せるための絵を入れるだけ(笑)。

仲:実際の絵の構図は、ネームの段階で決められるのでしょうか?

助野:ええ。コマ割りの段階で頭の中に絵があります。ちなみに構図は「右から左へ流れて読みやすいように」が基本。見せ場は迫力を出して、読んで見づらい時は構図を変える程度かなぁ…?

仲:アクションシーンの構図って、特に難しく感じますよね。助野先生の漫画は迫力がありつつも読みやすいのですが、何か秘訣はあるんですか?

助野:読みやすい構図としては『双星の陰陽師』(以下、『陰陽師』)では特にカメラに気を付けているかも。例えば戦闘シーンで、所々でキャラがアップや引きの構図になるけど、実はカメラ位置や向きはほぼ固定なんです。読者の見ている位置を変えず、できるだけ拡大・縮小で演出するようにすると、メリハリがつきつつ読者も混乱しない。あとは右上から左下に視線が流れるように、大まかなセオリーに沿って考えています。

仲:そういったセオリーはどこで学ぶのでしょうか?アクションが映える構図というか…。

助野:僕の場合は独学です。駆け出しの頃の持ち込みで「絵は上手いけれど漫画が下手!」と言われたことがあって…。その頃の僕、絵を描いて、余ったスペースにフキダシを押し込むという酷いやり方をしていて(笑)。プロの編集者にはしっかり見抜かれていました。その後は色々な漫画を意識的に見て勉強しました。今まで気にしなかったけれど、読みやすくなる工夫がいっぱいあって「漫画家は、そこまで考えてフキダシを置くんだ」と(笑)。

仲:普通の読者には気付かれない、漫画ならではの職人技がありますね。

助野:職人技とはいかないけれど、僕も『貧乏神』の後期や『陰陽師』では、ぶち抜きコマを控えるようになりましたね。少年漫画のコマ割りを研究すると、思った以上に読みやすいコマ割りをしているんですよ。「漫画が下手」と言われて以来、読みやすさは相当考えるようになりましたね。

仲:新人作家にコマ割りについてアドバイスをするなら?

助野:1コマ1コマに集中するより、流れを気にする方がいいと思う。1コマごとに集中してカッコいいアングルを描いても、一連の流れで読むと、視点があちこちに飛んで読みにくくなることがままあるので。

取材&マンガ 仲英俊
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