UNTRACE かっぴー×春瀬 隼 独占インタビュー

What's『UNTRACE』?
気鋭の作家・かっぴー氏原作のもと「ジャンプSQ.」の公式ホームページにて開催された、作画担当を募集する“漫画家公開コンペ”。ツイッターと連動するという画期的な方法で行なわれ、応募総数は100を超えた。その時公開されたネームの第1稿が下のリンクから読める。唯一無二の画風で作画担当を勝ち取った春瀬 隼氏は、本作をどう描き上げたのか?本誌とネームを比較して、普段見ることのできない変化を楽しもう。
BACK STORY INTERVIEW
KAPPY
――『アントレース』が生まれた経緯は?
林さんから「読み切りを描いてほしい」って言われて始まったんです。『アントレース』は、「cakes」で連載している『左ききのエレン』にも登場する言葉なんですが、それとは完全に独立した企画として考えました。でも連載を目指すんだったら、描きたいことがどんどん出てくるテーマじゃないと無理だなと。好きなこと、興味あることで何かテーマないかなって考えたら、「やっぱり中心は物作りの話がいいな」と。
そしてひとつの業界の中で、いろんな立場の人、いろんなキャラクターを描きたいなと思ったんです。『左ききのエレン』はいろんなクリエイターが出てくる漫画で、描かれている業界は広告もあればアーティストもあればっていう感じで、すごく広いんですよ。その逆で、いろんなタイプがぎゅーって集まってる業界って何かなと思った時に、ファッション業界って面白いなと。読み切りに登場するデザイナーとパタンナーはもちろん、フォトグラファーやモデル、バイヤーなども登場させる事ができます。ファッション業界のものを描きたいなと思い、『アントレース』が生まれました。
SYUN HARUSE
――公開コンペに投稿したきっかけは?
「ジャンプSQ.」のツイッターでコンペを知ったんです。“ツイッターでも募集する公開コンペ”という、新しい試みに惹かれました。当時は左手首を骨折していて、定規も固定できず描ける状態では無かったのですが、ネームを読んだ時にほんの一瞬「あぁ、自分が描くことになるから出さなくちゃいけない」と思ったんです。なぜそんな大それたことを思ったか分からなくて困惑しながらも、「あの一瞬を信じてみよう」と、ギブスが取れてすぐ制作作業に取り組み、投稿しました。
受賞した時は嬉しいと同時に不安で、しばらくごはんが食べられなかったです…(笑)。
KAPPY
――春瀬さんの投稿作を読んで
「プロが応募してきた!」って思いました。「この人だったらマジで人気出ちゃうな」って、かなり早い段階でイメージが湧きましたね。もちろんクオリティもプロみたいだなって思ったのもあるんですが、絵の方向性がすごくファッションぽいと思ったんです。“ファッションが描ける人の絵”だなって思いました。
SYUN HARUSE
――かっぴーさんのネーム(第1稿)を初めて読んで
受賞コメントと同じになってしまうんですが、「第1稿でこんなに面白くてまだ面白くなるのか!?」と思いました。
KAPPY
――自分のネームからイメージする絵との違いは?
『アントレース』に関しては、ほとんど絵のイメージを持たずにやろうと思って。たまたま僕は自分でも絵を描いて、漫画という形で発表してますけど、「それはそれ、これはこれ」みたいな感じで、この企画に関しては最初から原作者として入っているので、変に自分のイメージをつけないよう意識していました。ツイッターとかで「作画募集」の告知を打つ時にアキラとユウナを描いたことがあったんですけど、その時もちゃんとペン入れせずにラフのまま出して、あんまりイメージを固めないようにしましたね。それは自分自身のためにも固めないようにしてたって感じです。
隼さんが上手く汲んでくれたなってところで言うと、やっぱりキャラの魅力がグッと引き出されたってところですかね。特にアキラがめっちゃかわいいんですよ(笑)。僕のこれまでの漫画って、「何を言わせるか」とかセリフでキャラのことを分かってもらって好きになってもらうという、そういう戦い方をしていたので、いい作画があれば「あっこれめっちゃ早いな」って思いました(笑)。自分じゃ描けない領域の魅力ですね。絵で好きになっちゃうってあるよなと思って。確かに漫画ってそうだよなって再発見しましたね。
だから、初めて見るアキラとユウナなんだけど……不思議な感覚でしたね。一応僕が生んだっていう体なんですけど、完全にものにしてアキラとユウナをかえしてくれたなっていう。一枚でそれが伝わってすごいなって思います。
SYUN HARUSE
――アキラとユウナのデザインについて
アキラのデザインは一度のやり取りで決まりましたが、ユウナが難航しました。髪型や顔立ちの色々なパターンを、とにかく数を描いて送ったんですが、そのぶん迷走してしまい、ユウナからドンドンかけ離れていってしまいました。
そこでかっぴーさんに相談し、ユウナとアキラの人物像を聞かせていただいて、ペンが走るがままに描いたのが今のデザインです。初期に近いですが表情や仕草は変わりました。イメージは描き進めるうちに変化して、ユウナは男勝りな子から、感情豊かだけど芯の強い大人びた女の子という印象に、アキラは天才の一面を見せる不思議な空気感の少年から、純粋でかわいい印象に変化していきました。
KAPPY
――春瀬さんの印象は?
決まってから割とすぐにお会いしたんですが、このクオリティの絵を描いてるからめっちゃ自信満々で強いキャラのやつが来ると思っていて。うぃっす!みたいなやつが、どーも!(右肘上げ気味+高め位置での握手体勢)みたいな感じで来るかなって(笑)。そしたらものすごく控えめというか。丁寧で謙虚で、服もキチッとしていて、ものすごくちゃんとした人が来ました。なんというか…職人ですね。職人タイプの人が来ましたね。
アキラとユウナの関係って、“絵は下手だけどアイディアがある男の子”と“アイディアはないけどアウトプットするのが上手い女の子”のバディものじゃないですか。それで言うと、僕がアキラで、隼さんがユウナって感じだと思うんですけど、イメージはどっちかと言うと逆なんですよ。僕の方がうるさいというか、いろいろ考えてバーッてしゃべるタイプで、隼さんはわりと堅物そうな、「どうも…」みたいな感じの(笑)。
僕、たまに思い出して未だに「ふふっ」て笑っちゃうんですけど、みんなでしゃぶしゃぶを食べたんです。隼さん、肉2枚で「お腹一杯です」って言ってて(笑)。絶対嘘だよって思って。「どれがいいですか?」って聞いたら、「あっあっ」「どれでも…」みたいな感じで。すげー緊張してたんだろうなと思います。本当に人格者で、ちゃんとした方ですね。描いてくれたものも、こまめに見せてくださって。

林:そうですね。春瀬さんって上げてくる絵が本当に良いんですよね。

そう、だから何も心配しなかったです。とにかく早く見たいだけ(笑)。
SYUN HARUSE
―――かっぴーさんの印象は?
実際に会って、一緒に描いていけるのがかっぴーさんで良かったと強く思いました。柔らかい雰囲気で、面白くてすごく良い人。でも思ったことはちゃんと丁寧に伝えてくれるので、本当に信頼できる方だなと思いました。担当の林さんもなんですが、2人とも喋りが上手くてトークに華があり、すごく楽しい打合せでした。
KAPPY
――服の存在とは?
服か~、なんだろうな。……身も蓋もないこと言いますけど、多分人によって違うじゃないですか。服は機能だと思っている人もいれば、自己表現だと思っている人もいれば、武装というか、仕事においてスーツを着たりとか。職種にもよるし、キャラクターによっても服の向き合い方って違うと思うんですよ。そこが面白いなと思って。服を見れば、その人のコミュニケーションの取り方が分かるものだと思っていて。TPOを意識する人は気が遣える人だし、僕みたいにどこでも半ズボンで来ちゃう人は、自分が楽な方を優先するっていう。意外と性格は分かるなーと思っています。だから服は、価値観が垣間見れるものって感じですかね。
あと、よく“服は自己表現”って決まり文句のように言うじゃないですか。でも、意外と服で自己表現してる人って少ないと思うんですよね。今“ノームコア”とか言われてますよね。無地の白Tシャツがカッコイイ、みたいな感じで。そういう意味だと『アントレース』の中でも、あんまり嘘をつきたくないなと思っていて。ファッションの学生だからといって、みんな個性的な格好をしているわけではないと思っているんです。そして、2017年という“今”のファッションのトレンドだけじゃなくて、ファッションの価値観をちゃんと漫画の中に反映させたいなと思ってます。
読み切りではまだそこまで垣間見れてないんですけど、ユウナはファッションの歴史が好きなんです。ファッションの歴史込みでファッションが好きで、現代のファッションもちゃんと認めているっていうキャラクター造形なんです。なので読み切りで登場する「雨の日」をテーマにした服とか、シルエットは割とクラシカルだけど素材はモード、みたいな感じにしていて。そのへんでユウナのファッションへの興味を出したいと思ってます。一方でアキラは、興味があるものは割と知ってるんだけど俯瞰的には知らない、みたいな。そういうところも連載まで行ければ出していきたいなと思ってます。
SYUN HARUSE
――服の存在とは?
その人自身が投影されてるものであり、心を明るくしてくれたり、気を引き締めてくれたりするスイッチでもあるんじゃないかと…思います…
この質問時間かけて考えたいですね…難しすぎませんか…!?
KAPPY
――ネーム第1稿からの変化は?
結構変わってます。単純にページ数が増えましたし、すごく練りました。

林:結局第6稿までいきましたかね。これで、って決まっても納得いかなかったり、直せるところもあったりして。直せて良かったなって思いますね。ネームを読んだ方は、ぜひどう変わったのか見ていただければ。もしかしたらこれは、編集者が見る光景を読者さんも見れることなのかなと思ってます。作画が入るとこうなるんだっていう、編集者が日ごろ作家さんからもらう“変化に驚く気持ち”を、ネームを読まれた方は追体験できるんじゃないかなと。ぜひ楽しんでほしいなと思います。
SYUN HARUSE
――「このシーンを自分の絵で漫画にしたい!」と強く思ったところは?
投稿時に描いたページですね。アキラのキャラクターが見えるシーンと、ユウナの見せ場です。でもネームの最終稿をいただいてから、ユウナの見せ場前後が描きたくて描きたくて仕方なかったです。
投稿作では、普段自分では描かないもの・描けないものを描く楽しさがありました。服を描くことに苦手意識があるのですが、「素材感をちゃんと描きたい」と意識するところからはじめ、自分の足りない部分がたくさん分かりました。
ネームが代わると、受ける印象の違いからか絵が少し変わりましたね。投稿時のものと掲載時のもので同じシーンがありますが、かなり絵が違います。1枚にかけられる作画時間がかなり違ったこともあり、自分の知識の足りなさ、技術の足りなさが浮き彫りになって、課題が山積みです。
KAPPY
――意図を伝えることなど、原作担当として大変だったことは?
あ、もう全然なかったです!隼さんが「ここはこうした方が良くないですか?」って、提案してくれるタイプの人なので。もちろん違う時は「元のやつでいきましょうか」って話しますけど。1回目の初めましてにしては、かなり上手くやりとりできたかなと思っていますね。
SYUN HARUSE
――表現の仕方など、作画担当として大変だったことは?
作画だから描ける限りの良い絵を入れるのは当たり前として…、かっぴーさんが感情を伝える絵を描くのが本当に上手くて、自分が描いた時にキャラクター達の微妙な感情を表現しきれていないんじゃないか、読者に伝わるんだろうかと悩み、何度も何度も描き直しました。
あとは原作と作画で分かれる以上、「1人で描くモノよりクオリティを高くしなくてはいけない」という意志と、自分の実力との差が自分の首を締めてしまい大変でした。
今回を通して、自分自身が今後気をつけていきたいこととして思ったのは、“キャラクターの機微に触れて絵を描くこと”です。作画担当だからと気合いを入れすぎて、変にカッコいい絵、構図に囚われただけの絵を描き、ストーリーのテンポを崩してしまったり意図してるものからズレたりしないようにしたいです。それらを踏まえた上で、“漫画”として良い絵を入れ、作品を楽しんでいただけるようにしたいと思います。
KAPPY
――『アントレース』の見どころは?
隼さんの絵です(笑)。本当に本当に良いんで!隼さんの絵に引っ張られて、「もっとストーリーをよくできる」と思って直した話しの流れも、もちろん見てほしいんですけど…やっぱり絵が。「引っ張ってくれてるな」ってパワーを感じるので。
SYUN HARUSE
――『アントレース』の見どころは?
第1稿から新しく増えたページがあるんですが、そこを含めた前後を見て欲しいですね。この増えた部分のエピソードが大好きなんです。描いていて一番楽しかったところで、描きたかったところでもあります。第1稿のネームと見比べていただいても楽しいかと思います。
KAPPY
――春瀬さんへ一言
二人の中で、すでにキャラが結構育ちつつありますね。隼さんと「アキラってシスコンだよね」って話をしたら「そうですね」みたいな(笑)。相当愛着が湧いてます、二人とも。今日も勝手に第6章ぐらいまでのプロットを林さんに渡して(笑)。もう林さんが困るくらい先に考えちゃおうと思って。

林:ありがたいです(笑)。

本当に子どもと似たようなもんですね。生みの親と育ての親みたいな感じですよね。なんとか連載にして、ちゃんと育てていきたいなと思うので、隼さんよろしくお願いします!連載目指しましょう!
SYUN HARUSE
――かっぴーさんへ一言
かっぴーさん!読み切り版『アントレース』描かせていただき本当にありがとうございました!
しかし、読み切りで満足できてません。ユウナとアキラの先が観たい、ユウナとアキラのように、この2人だからこその『アントレース』をまだまだ描きたいです!連載目指して頑張りましょう!
SPECIAL COMIC
読み切りが連載を勝ち取るには?
\担当・林氏が熱烈依頼/