◆――新連載の原稿が完成したばかりという森先生。前作『エマ』はヴィクトリア朝が背景のラブロマンスでしたが、今回は中央アジア&コーカサス地方を舞台にした、シルクロード系ロマン…ということで、こうした構想はどのぐらいからあったのですか?
中・高校生ぐらいから、中央アジアのカザフスタン、ウズベキスタン…「○○○スタン」と名のつくような地域に興味があって、よく本を読んではいたんです。東洋でも西洋でもなく、その中間にあるような文化圏に惹かれて。馬が好きなので、モンゴルにも憧れていました。そして何より食べ物が…。シシカバブとか、ナンとか、焼いただけのシンプルなお肉とか麺とか、なんて美味しそうなんだと(笑)。酵母の入っていない、薄くて平たいパンとか、ああいったシンプルな食事がおいしそうに見えてしょうがなくって。『エマ』も、ベースはイギリスとメイドありきですが、ゆでたジャガイモ美味しそうとか、その辺からも入ってたりして(笑)。
◆――食べ物から、壮大なシルクロード物語になったと(笑)。
いや、壮大だなんて。範囲的にはホントにピンポイントですよ。資料を読むうちに、どんどん生活や民族衣装に寄っていって、そのまま途中下車しちゃった感じです。シルクロードを舞台にしたマンガって、紀行ものが多いですが、私は家族の暮らし…衣食住を描きたいんです。
◆――もう、現地取材をされたりしたんですか?
いえ、まだ現地へ行ってはいないです。今はそうでもありませんが、10年くらい前まで、あの辺りは「秘境」の部類に入っていまして、ぎりぎりモンゴルまで行けるぐらいでツアーもなかったので。個人で、ロシアや中国から乗り継いで回って行くしかないという…。
◆――そうすると、いろいろ資料を読みこまれて、史実も調べられて…?
正直、資料も広範囲にわたっていて、なかなか集めきれないんですよ。遊牧民はずいぶん後の時代まで、表記文字をもたない文化だったということもあります。年代的には、ソ連に合併されて、建物から何から…文化がロシアの影響を受ける手前ぐらいでしょうか。もともと、それぞれの民族単位で狩猟や遊牧生活をしていた地域なんですが、1920年代より、集団化&定住化政策というのがあって…遊牧民が一定の地域で、農耕をするようになったんですね。牧畜より農耕のほうが継続的に収入があるので、お上がそういうふうにさせたということでしょうか。そういう制度になる前の、家族単位で動いていた姿を描きたいんです。大戦の起こる前、ぎりぎり19世紀末頃までは、それぞれ民族衣装もがっつり着ていますし。
◆――これほどの衣装や背景へのこだわり、描きこみですと、作画的にも相当お時間がかかったのでは?
40ページで2〜3週間だったかな、下書き1週間にペン入れ2週間ぐらいでぎりぎり…。もっと欲しかったです。アシスタントさんにはトーンワークだけお願いしました。『エマ』の時からそうですが、背景とか説明しようがないし…というより、自分で描きたいからか。はい、やりたいからやってます(笑)。やはり衣装は好きですので。−−特に好きなものですか? 帽子、ストッキング、ハイヒール。…あんまりこんなことを言うと、アレですかね(笑)。
◆――作画の参考にされたり、リスペクトされている作家さんはいますか?
今回は前川たけし先生の『鉄拳チンミ』とか、矢口高雄先生の『マタギ』とか。動物や狩猟、自然描写はなんといっても谷口ジロー先生ですね。山の描写も、谷口先生はすごいです。以前、1回アシスタントさせていただいたことがあるんですよ。編集さんを通して「ファンです〜」ってねじこみまして。
◆――じゃあ、あの谷口先生の生原稿を見られたわけですね。
はい。も〜う、鹿がかっこよかったです。私は一日中、山だけ描いていましたけど、すごい経験になりました。今も真似して描いたりします。目標としては谷口先生の域にまでいきたいんですけど、先生にそう言ったら「大変だから、やめときなさい」って(笑)。必要なだけ、しっかり描きこみたいんですけどね。木彫りの柱の、その彫りとか…。今回も、全体的にもっともっときれいに仕上げられたらよかったな。 |