ジャンプSQ.若手作家が聞く「マンガの極意!」浅田弘幸 先生 & 濱岡幸真 先生

《4》キャラクターを作るのは「過去」

濱岡 浅田先生が人物キャラクターを考える場合、何を起点にされていますか?

浅田 『テガミバチ』のラグの場合、「少年漫画の主人公らしい、とにかく真っ直ぐな男の子が頑張る漫画」を描きたかった。しかもその頃の「月ジャン」では、そういった主人公も少なかった。自分の普段の感覚で考えると、ザジみたいなタイプが主人公になりがちですが、『テガミバチ』はそれを抑えて考えてみたんです。そして「悪意をもって接されても、お礼を言ってしまう純真な少年」という特徴が出てきました。

濱岡 キャラクターの特徴を自然に出すには、どのようにすればいいのでしょうか?

浅田 僕はキャラクターが持っている要素とは、それぞれの過去に要因があると思います。彼ら一人一人が過去にどんな経験をしてきたか…それを考えて掘り下げていけば、キャラクターの特徴は自ずと形になっていくと思うんです。

濱岡 だから最初はやんちゃだったラグも、ゴーシュと出会って何年か経つと口調まで変わってきたんですね。

浅田 ラグにとって、ゴーシュとの出会いは大きなきっかけだったのでしょうね。成長して素直になったラグを見て、そこからゴーシュの存在を感じてくれる読者がいたらいいな、と考えていました。

濱岡 では、キャラクターのビジュアルはどこから考えられるのでしょうか?

浅田 原稿の時点で(笑)。実はキャラクターのデザインは、ネームの段階ではまだ生まれていないことが多いのです。だから『テガミバチ』連載の予告カットも、描いている時点でまだ衣装が固まっていなかったりとか…。

濱岡 ビジュアルが凝っているから、最初からデザインも詰められるのかと思っていました。では、被らないキャラクターデザインのコツはありますか?

浅田 例えばキャラを骨格から考えるとか?絵を描く人って、自分の手癖というか、好きな形が大体決まっていきますよね。そこから外れたデザインを考える時は、骨格から考えます。顔も頭蓋骨の輪郭とか、頬骨の高さとか…そこから考えれば、自然と造形も変わって差別化されていきますね。

濱岡 「ステーキ」「ぽんた」など、浅田先生の動物キャラは皆可愛いのですよね。あれはどのように考えているのですか?

浅田 非常に適当です(笑)。動物らしさがあればいいかな、くらいのノリで描いています。普段から猫を飼っていたり、面白い動物のリアクションはずっと見ているので、もしかしたら自然な動きがついているのかも知れませんね。

濱岡 キャラクターの服や小物は、各キャラの好みが反映されているように見えます。何か参考にしているものはありますか?

浅田 基本的に「これ!」といった資料はなく、自分がこれまで見てきて、好きだと思ったものを落とし込んでいます。『テガミバチ』は皆制服を着ているので、気を抜くと同じになってしまう。だから「コイツは帽子を逆に被りそう」「こいつはカッチリ着ていそう」と、キャラの性格を突き詰めて差を出すようにしています。

濱岡 キャラクターの表情を豊かに上手く見せるコツはありますか?特にラグの泣き顔とか、非常にグッときますよね!

浅田 実は表情をつけるのは結構苦手で…。でもラグは「こころ」を見せないといけないキャラクターなので、敢えて描くようにしています。自分では「変な顔だなぁ」とか思いながら(笑)。それに、過去の作品ではキャラクターの感情を爆発させるような描写を、あまりしてこなかった。『テガミバチ』で一度、自分の殻を取っ払ってみたかったんです。主人公のラグを子供にしたのは、それもあります。

濱岡 逆に相棒のニッチは、子供の姿の割には表情をあまり出さないですよね。

浅田 ニッチには野生動物のイメージを持っているので、逆に表情をあまりつけないように意識しています。焦っても汗をかかない、とか(笑)。

取材&マンガ 濱岡幸真
手塚賞準入選「超人 馬場ババ子伝説」でSQ.19で掲載デビュー!