ジャンプSQ.若手作家が聞く「マンガの極意!」星野 桂 先生 & 肘原えるぼ 先生

《1》キャラクターに振り回されるネーム作り

肘原えるぼ先生(以下、肘原) 新人の肘原えるぼです。『D.Gray-man』の大ファンで、先日のニコ生(※1)も楽しく拝見させて頂きました。とても緊張していますが、本日はよろしくお願いします! (※1 2016年1月21日にニコニコ生放送で放送した「ジャンプSQ.CROWN WINTER号発売直前!星野桂先生+初代担当Y氏+現担当K氏によるスペシャル座談会」のこと)

星野桂先生(以下、星野) ニコ生をご覧になって下さったんですか!どうもありがとうございます。今日は出演時の「星野BOX(※2)」で描いて頂けるかも…と思ってニコ生と同じ服装で来てみました(笑)。みなさんに役立つお話が私にできるのか心配なんですが、精一杯応えさせて頂きます。どうぞよろしくお願いします。 (※2 手作りダンボールを頭にかぶった星野先生の姿)

肘原 ではさっそく質問に移らせて頂きます。星野先生のネームの手順を教えて下さい。

星野 基本は「自分の頭の中であらすじを作る」→「担当編集さんと打ち合わせ」→「ネーム作り」という感じです。最初に1話分のあらすじを決めて描き始めるんですが、いつも全く違ったものができあがります…。本当は物語の流れを考慮した「あらすじ」通りに作りたいとは思っているんですよ。でも、そこにキャラクターを絡ませると全然違う方向に進んでいってしまうんです。自分のキャラクターなのに言うことをきいてくれない(苦笑)。でもアレンたちがどういう行動原理で動いているのかはわかっているので、キャラクターが進んでいく方向に納得ができたら、本来のあらすじを一度捨てます。そこから改めてエピソードを構築していく感じです。

肘原 キャラクターに振り回されてしまうんですか?

星野 そうです。最初のあらすじは物語としてはキレイにまとまっているんですが、キャラクターに身を任せた方がワクワクする展開になるんですよ。ただそうやってアレンたちの意思を尊重してネームを進めていくと、「ページ数が足りない!!」という事態がよく起きますね(笑)。当然ラストの終着点も全く違うものになり…。そのネームを見た担当編集さんから「打ち合わせと全然違いますね」と言われたら、ひたすら説得します。私は強情なのでだいぶ粘りますが、それでも相手に納得してもらえない部分は修正していきます。

肘原 ネームでは自分の意志を突き通した方が良いんでしょうか?

星野 新人さんだと担当編集さんに意見することは難しいかもしれませんが、最終的に自分が後悔しないようにやりきったほうが良いと思います。私は週刊連載のハードスケジュールを言い訳にネームで妥協をしていたら、当初考えていた『D.Gray-man』の物語とは方向性が少しずれてしまったんです。今でもそのことをすごく後悔していて、当時ちゃんと主張して描いておけば良かったという思いがあって…。だから、漫画に関しては強気に出ようと思っています。

肘原 ネーム段階ではどの程度絵を描きこまれていますか?

星野 現在はネームからデジタルで行うようになり、下描きとしても使えるように絵をしっかり描きこむスタイルでやっています。『BLEACH』の久保帯人先生がこの方法でネームをされていると伺い、それにずっと憧れていたんです。でも週刊連載をしていた当初はなかなか挑戦できず、作業をデジタルに切り替えたタイミングで現在のやり方に変更しました。昔は絵も簡易的で、キャラクターの顔は「へのへのもへじ」レベルだったんですけどね(笑)。

肘原 アナログの時は何にネームを描かれていたんですか? 

星野 ネームを描く媒体はバラバラでした。その時に自分がネームを描きたい、もしくは描けそうだと思えるものに描いていたので、「絶対このノートに描く!」とかは決めていなかったです。スケッチブックやクロッキー帳、ある時はそのへんにあったコピー用紙の裏に描いていたこともありました(笑)。例えば「ネームはこのノートに描く!」と決めてしまうと、それが目に入るたびに「今月もネーム描かなきゃ…うわっ真っ白だなぁ…もうノートを見るのも嫌だなぁ」という気分になるんですよ。なので、もはや見たくもなくなったノートは置いておいて、別のクロッキー帳を開いて描くという方法を取っていました。

肘原 そうやってモチベーションをキープされていたんですね。ネームを描く場所はご自宅ですか?

星野 お茶の水に住んでいた頃は、ほぼこのカフェ(※今回の取材場所)で描いていました。ここは私のお気に入りのお店で、マスターがとても良い人なんです。コーヒーがとても美味しく、その上、店内の雰囲気ある間接照明が真っ白いページをセピア調のやさしい色に染めてくれる気がして…。私は真っ白い紙に向かうのはとても辛いので、紙が少しでも何かで埋まっていると安心するんです(笑)。肘原さんは白紙って怖くないですか?

肘原 白紙を前にした恐怖はよくわかります…。

星野 あと喫煙可能なお店だったので、タバコの煙が苦手な私にとって長居はできないという部分も重要でした。その分、短時間で集中してネーム作りができたんですよ。自分にとって居心地が良すぎるところだとだらけてしまうので、ネームは「居心地が良いけど長居のしづらい場所」でやるのが最適だと思っています。