片翼のミケランジェロ 伊藤砂務

前回までのあらすじ

ストーリー

 1488年…後にルネサンスと呼ばれる時代。イタリアのフィレンツェに若き日のミケランジェロはいた。彼は当時の時世では地位が低く見られていた絵画や彫刻…手先の技術で一から何かをつくり出す「職人」に対して憧れを抱いていた。しかし裕福な身の上の彼は、父の決めた将来を拒めず、職人への道は閉ざされていた。そんなある日、彼に才能を見出した工房主のギルランダイオから弟子にと声をかけられる。後に「巨匠」とまで称される芸術家・ミケランジェロとしての人生が、今始まる――!!


 チェーザレのイタリア統一が現実味を帯び始めていた中、青天の霹靂とも呼べる出来事が起こる。チェーザレと、その父である教皇が揃ってマラリアに感染。病床に伏す事態になってしまったのだ。さらに、父・教皇はそのまま死去し、後ろ盾も喪ったチェーザレは、この機に報復に迫る軍を撤退させるためにも、ローマからの退去を余儀なくされる。


 その知らせはフィレンツェまで届き、市民がチェーザレの失脚を喜ぶ一方、夢や野望に手が届かない苦しみを知るミケランジェロは彼に手を差し伸べたいと考えるのだった。
 その頃「フィレンツェの危機を回避」という目標は図らずも達成されたレオナルドもまた、チェーザレという人間を思いのほか気に入っており、できるだけのことはしようと、動く。


 ローマを去る中チェーザレは、ミケランジェロとレオナルドの二人から手紙を受け取る。レオナルドは、チェーザレの指示で描いた設計図等を悪用されないよう焼却したことと、また再起する際は力を貸す約束の旨が。ミケランジェロの手紙には、チェーザレの中に、確かに「英雄」を見た…と、素直な激励と共に、友人として生きてほしいし、いつの日かダヴィデ像を見に来てほしいという言葉で締めくくられていた。彼の心の中で消えかけていた夢は、ささやかな肯定を受け、彼は死ぬその日まであがき続けることとなる…。


 フィレンツェの危機は去り、時を同じくしてダヴィデ像も完成。役目を終えたレオナルドは「報酬」の受け取り…もといダヴィデ像を拝見しに現れた。いつものごとく開口一番批判ともとれる所見から始めるレオナルド。しかし、そんなレオナルドの好みでない作品だからこそ、ミケランジェロにしか作れない最高傑作だと告げる。こうしてレオナルドは、労力に見合った納得の「報酬」を得たのだった。

キャラクター紹介
  • ミケランジェロ
    裕福な家に生まれるも、一から何かを生み出す「職人」に憧れる青年。隠れて絵を描き続ける中で、ギルランダイオに声をかけられ工房に弟子入りすることに。
  • ギルランダイオ
    フィレンツェの人気画家。街で工房を構える職人で、ミケランジェロを弟子にとる。
  • ルカ
    ミケランジェロの学友で、彼を気に掛ける。
  • フランチェスコ
    ギルランダイオに師事する職人。ミケランジェロが隠れて絵を描いていた頃から、彼を何かと手助けしていた。
  • ロメオ
    ギルランダイオの弟子で、歳の近いミケランジェロに、先輩として色々工房の仕事を教える。ある出来事から工房という“協力する場”を人一倍大切に思っている。
  • レオナルド・ダ・ヴィンチ
    ルネサンスを代表するもう一人の天才。様々な分野の知識や才能に長け、多方面の知見から成り立つ作品は破格の存在感を放つ。本人にとって作品作りは、この世の全てを解き明かす、探求心を満たす行為だと言う。