【インタビュー 第3回】伊藤智彦×凸ノ高秀 クリエイターズSQ.
我々の興味の中心でありながら、意外と実態を知らないエンタテインメント業界。本コーナーでは業界で活躍するクリエイターたちを取材し、その仕事の実情を探って行く!今号では、現在最も勢いのあるアニメ監督の一人・伊藤智彦監督が登場! 全三回に渡って「アニメ監督の仕事」についてご教示頂く!
アニメ化されやすい漫画とは!?
――伊藤監督は漫画原作のアニメ化を手掛けられることも多いですが、アニメ監督として、漫画原作についてどのように思われていますか?
伊藤 アニメを作る上でやりやすい点としては、ある程度の正解が見えているというところですね。キャラをどこまで寄せるか基本が既にあり、世界観のビジョンも示されているので、「じゃあアニメではどう調理しようか」という風に考えられます。デメリットは、人によっては「自分のやりたいことができない」という意見もあるかも知れませんが…だったら原作ものをやらなければいいだけの話で(笑)。いかにファンを大事にするか、自分がその原作を好きになれるか、ということでしょうね。俺は原作ものを作る時は「俺がこの作品の一番のファンである!」という気持ちで作ります。「ファンだったらここは外しちゃいけないよな」という嗅覚を養っておかないと、と思っています。それでもエピソードやキャラがアニメの尺に収まらない時もありますが、原作に対する愛を見せて行けば、原作ファンも「まぁ、しょうがないよね」と許してくれるはず…と。
――少々雑な質問ですが、アニメに携わる方々が「アニメにしたい」と思える漫画はどのような作品でしょうか?
伊藤 世の中のプロデューサーやアニメ監督と、俺が考えることは違うかも知れませんが…。プロデューサー陣は1~2話を読んで「先が気になる!」と感じたら押さえておこうとするようです。キャラがいい、絵が上手い、女の子が可愛い…となると完璧で、さらに先の展開が分からないと「これはいけるんじゃないの!?」と思うようです。俺自身の好みはもうちょっと地味路線の作品で、「他と比べてちょっと華が少ないなぁ…でもそこがいい!」と考えます。「この作品にアニメで色を付けて人気が出たら、俺が褒められる」と(笑)。これはあくまで演出としての観点ですが、原作に隙があった方がアニメは作りやすいと思っています。最初から完成されている作品より、アプローチを変えたら広がりが出て、原作とアニメが相乗効果で一緒に大きくなってくれるんです。
――ところで伊藤監督にとって、ご自身の血肉となった「心の作品」はありますか?
伊藤 俺が同じような作品を作るという意味ではありませんが、まずは庵野秀明監督の『新世紀エヴァンゲリオン』(以下、『エヴァ』)を挙げざるを得ないです。エンターテインメントとして特に序盤が面白く、来週が気になって仕方がなかった。中学生の頃、地元のテレビ愛知では平日の7時30分から放送されていたので、『エヴァ』を観てから学校にダッシュするという生活でした(笑)。それ以外だと、大学の頃にビデオで観た実写映画『太陽を盗んだ男』(1979年/長谷川和彦監督)ですね。あの頃は暇があって、黒澤明監督作品など昔の名作映画を片っ端から観ていました。多くは「面白いけれど、やや古いな」と思っていたのですが、『太陽を盗んだ男』は日本映画の文脈と全く異なっていて「こういうの、やっちゃっていいんだ!?」と強く印象に残っているんです。実写映画なのにアニメっぽい演出がいっぱいあるし、しかもそのノリが自分は好きだったりする。そして後々アニメ業界に入ると、俺の上の世代の方たちも皆この映画が好きなことが判明しました。
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