スクエアベース リポート#2
司会:2時間目の講師は鏡貴也先生です!
鏡:よろしくお願いします。
司会:まずは自己紹介をお願いできますでしょうか。
鏡:はい。『終わりのセラフ』の原作者、鏡貴也です。まず初めに、ぼくが小説家を志したときのお話しをすると、高校3年生の頃、家が地上げにあって高校を辞めることになり、家の中にいながらできる仕事は何だろうと考えたことがきっかけでした。元々小説や漫画は好きだったので、小説なら家でも書くことはできそうだなと(笑)。そこでとりあえず3000円くらいのボロボロのワープロを買って小説を書き始めたのですが、まずは必ず完成させることを第一の目標としました。その時、確か1月だったと思うのですが、3月の電撃、5月のスニーカー、8月の富士見ファンタジアの新人賞に全て応募しましたね。今考えると、正直とんでもなく下手なものが出来上がったのですが、書き上げる毎に見直し反省はしていて、自分なりにはより良いものになっている自信があったので、ちゃんと見てもらえれば行けるのではという気持ちも心の中にはありました(笑)。でも3月、5月の賞ともに1次で落選。その際、雑誌で結果発表があったのですが、本屋で落選を知って足が震えたのを覚えています。そこで、「ぼくには才能ないんだ。小説家は諦めよう」と思いました。その半年後くらいでしょうか、3本目の富士見ファンタジアは結果発表が遅かったのですが、まさかの受賞の連絡がありました。「え?小説はもう書き方忘れるくらい書いてないよ」って思いましたね(笑)。その時の受賞作『武官弁護士エル・ウィン』がぼくのデビュー作になりました。後々聞いた話ですが、当時富士見のヒット作品を数多く担当されていた編集さんが、ボツ原稿の山の中から作品を見つけて選考に引き上げてくれたらしいです。その方がぼくの初代担当さんになったのですが、今でもぼくの恩人です。
司会:ありがとうございます!まるでドラマみたいなお話ですね。それではまず私から、いくつか質問をさせて頂きます。
鏡:そうですね。それこそぼくの初めての担当さんとの話なのですが、ある時バトル小説を書いていて担当さんに見せたところ、「戦闘シーンが長いので短くして持って来て」と言われたことがありました。まあ普通の新人さんだったら「なるほど、短くしよう」って思うんでしょうけど、当時の鏡青年はひねくれていたので(笑)、まずなんで長いと言われたんだろうって考えましたね。結論は、きっとつまらないからだろうと。なので、自分が絶対面白いと思える内容で3倍の長さにして持っていきました。そしたらその担当から、「短くなっていいね!」って(笑)。ヒット作品を連発している敏腕編集でしたし、その人が適当だとかそういうことではないと思います。ただ、編集者っていうのはそういうのもなんだと。向こうは作品を読むプロであり、第一の読者でもある。でも決められた時間の中で、作品を読んでアドバイスしてくれる時、その言葉は文字通りの意味なのではなく、読者が受ける印象とほぼ同義なのだと思います。もちろんその意見自体は正しいので、真摯に受け止めるべきなんですが、大事なのは言われた通りにそのまま変えるのではなく、その裏にある意図を汲み取って、向こうの想像を超えるようなものを作っていくこと。また、ぼくら作家は編集者と違い自分の作品に向き合える時間がたくさんある。なので「短くして」と言われたなら、短くするパターンも書いたらいいし、長くするパターンやそうでないパターンも書いて、その中で一番自分が自信のあるものを選択すれば納得のいく作品になるのではないでしょうか。
司会:新人漫画家の皆さんにとっては、とてもためになるお話ではないでしょうか。では次の質問に移らせて頂きます。
鏡:プロットを先に作ってしまうと、そこから大きく外れることがなく、面白味が弱くなってしまう可能性があるからです。もちろん先に頭の中で「序破急」は考えますが、書き始めて行けそうならそのまま書き続けますし、上手くいかなくなったらそこまで面白くてもボツにします。また、ぼくは「それぞれのキャラクターは人格をもって生きている」と考えるようにしているのですが、例えば”これだ”というセリフが出てきて、それが仮に世界感に合わないような場合は、セリフではなく世界観の方を変更しますね。その方が物語は強固になると思っています。
司会:なるほど、ありがとうございます。ではもう一つ私から質問をさせて頂きます。
鏡:少しずれるかもしれませんが、ぼくは「描きたいものを描くべき」という言葉には、「でもそれで売れてね」という意味も含まれると解釈しています(笑)。商業作家である以上、作品を作るのはより多くの人に読んで貰うため。つまり、「描きたいもの+売れる=読んでもらうもの」ということを意識してください。皆さんもいつか連載が始まったら、今回こちら側で講演しているぼくらと同じ土俵で戦わないといけません。そのぼくらが命懸けで書いているので、「ただ純粋に描きたい物を描ければいい」という考えだけでは、生き残るのは難しいかもしれませんよ。
司会:ありがとうございます。とても重みのあるお言葉ですね。では質疑応答に移らせていただきます。質問のある方はいらっしゃいますか。
鏡:連載作品の場合は、締切もあるので、時間が制約になりますかね。新人の場合も同じで、出すと決めた賞などの締切を守ることが大事です。ただ締切の範囲内では死ぬほど頑張ること。作者自身ではその作品が面白いか面白くないかジャッジ出来ないので、とにかく決めた賞には必ず出すことを厳守するといいと思います。ぼくが新しい作品を立ち上げる場合の話をすると、まず〈売り〉〈世界感〉〈キャラ〉を回転させます。〈売り〉となるものは、何度でも使えて読者が気持ち良くなれるものか、などを意識して。また、連載作品とは最低10年付き合いたいと思っているので、その作品が10年間耐えうる強度を持っているかも考えますね。『終わりのセラフ』も企画開始から連載決定まで1年半以上掛かりました。その間担当さんが変わったり色々ありましたが、繰り返しブラッシュアップをして質を高めていきました。目標は、≪目指す媒体の平均値≫ではなく、≪今一流と言われている作品≫。同じ金額を払ってくれる読者に対して、失礼じゃないのかという恐怖心を持ちながらぼくは作品を作っています。
司会:鏡先生が実際にどのように作品作りをされているかが分かり、とても勉強になります。では次の質問をお願いします。
鏡:そうですね。そもそも起承転結と一括りに言っても、全体を通しては「準備・助走・ピーク」の波が沢山無いといけません。読者は何もないシーンは読んでくれないし、始まって3ページくらいで面白くなければ、もうその先は読んでくれません。小さい波を繰り返す中で、物語のピークもきちんと描けると、起承転結のついた作品になると思います。私が原作者としてジャンプにやってきた際、担当編集から「キャラが何をして、何を達成して、どう成長したか」が分かる話を毎回やってほしいと言われました。なので、『終わりのセラフ』は4巻くらいまで、毎話初見の読者でも分かるような、読切漫画的な構成で話を作っていました。
司会:ありがとうございます。では他に質問ある方はいらっしゃいますか。
鏡:「漫画や映画などの一流のエンタメ作品と比較して、自分の作品はどうか」ということを判断基準にしています。ぼくの場合は、子供の頃から映画は1万本以上、漫画も数えきれないぐらい読んできた環境にあったので、その感覚を自然と培って来れたと思います。皆さんにも、自分のジャッジ基準を上げる為には一流作品と競うということを勧めたいですね。もちろんいきなり同じレベルに達する必要はないのですが、目標は高ければ高いほど良いと思います。
司会:客観的に判断できるようになるためには、インプットの量や質も重要になりますよね。では次の質問をお願いできますでしょうか。
鏡:キャラクターを1人の人間として扱うことでしょうか。人はそれぞれ生き方にバリエーションがあり、様々なコミュニティに所属しながら生きています。別々の生き方をしている人間と人間が対峙したら、どういった反応を起こすのか、そういった背景込みできちんと想像してあげることが大事だと思います。
司会:客観的に判断できるようになるためには、インプットの量や質も重要になりますよね。では次の質問をお願いできますでしょうか。
新人:もう一つ質問なのですが、以前担当編集から、複数登場人物がいる場合は、なるべくシンプルなキャラ配置の方が良いと言われました。個人的には多少バランスを崩しても、変わったキャラ配置に挑戦してみたいのですが…、どうすればいいか悩んでいます。
鏡:悩んで手が止まるくらいなら、まず10パターンくらい配置の組み合わせ出してみたらどうでしょう。それを担当編集に見せれば、「そっちの方がいいな」という意見になるかもしれません。キャラ配置に関してテクニック的なことを言うと、数多くのキャラを立たせるのは確かに大変なので、まずキーとなる2人を真剣に作り、そこの対話が面白いかを確認してください。それがないと読者は読んでくれません。その上で、その話をより面白くさせるのに足りないパーツは何なのか、考えていって下さい。
司会:キャラクターについての考え方は、漫画を描くうえで切っても切れない大事なものですよね。では他に質問がある方はいらっしゃいますか。
鏡:もちろんいろいろありますが、一例を挙げるとすると、映画の予告を見ているときでしょうか。特にB級・C級映画の予告は本編と全然違ったりしているので、「もしこうなったら面白そうだな」などと妄想しながら楽しみますね(笑)。そういう感じで日々楽しく過ごしていたら、アイデアは自然と出て来ると思います。ここにいる皆さんの中で、話のアイデアがあまり浮かばない人は絵が描きたい人かもしれません。その絵の技術を上げて、ぼくみたいな原作者を捕まえ、連載を勝ち取るという手もありますよ。その時は優しくして下さい(笑)。
司会:ありがとうございます。では次の質問をお願いいたします。
鏡:そうですね…、たぶん頭が働いている間はずっとだと思います。ぼくは全ての物事をストーリーで認識するようにしていて、例えばふらっとコンビニに立ち寄った時は「このコンビニに何故この本が陳列されているんだろう」とか、「あの店員が頭を下げているけど、漫画だったらどんなセリフが合うかな」とかを常に考えています。ちょっと病的な部分があるかもしれないので、こんな生き方はあまりお勧めできませんが(笑)。また、その時その時で感銘を受けたものが作品に登場しがちなので、親しい人はすぐ気づくみたいです。
司会:時間になりましたので、質疑応答はここまでとさせていただきます。それでは鏡先生、最後に新人の皆さんへ一言お願いできますでしょうか。
鏡:はい。日本のエンタメを担っている人たちにとって、みんな心の中では「ジャンプ」がエンタメの頂点だという認識があると思います。ぼく自身もそうでしたし、ぼくの知り合いのラノベ作家さんたちの中にもジャンプで連載したいという気持ちがある人がたくさんいます。もしジャンプを表のエンタメだとすると、他は全て裏のエンタメというぐらい、ジャンプには力があると思っています。今日この講演を見に来ている人たちは、一人一人違ったステージで連載を目指している漫画家さんだと聞きましたが、ここにいる皆さん全員が、将来日本のエンタメを背負っていく人たちです。いつの日か皆さんと同じステージで競い合えるのを楽しみに、ぼくも毎日必死に戦い続けますので、皆さんも是非頑張ってください。
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