ジャンプSQ.若手作家が聞く「マンガの極意!」許斐剛 先生 & 入尾前 先生

《2》漫画の執筆方法
展開について

入尾:ただ読者の方々は、その時代ごとに嗜好が変わる流動的な存在だと思うんです。先生はそんな読者の方々に適応していくため、毎日行っていることはありますか?

許斐:習慣で行っていることはないですね。私は映画も漫画も観ない方で、単行本に至っては15年近く読んでいないかも…?アメリカのTVドラマが好きですが、マニアではないですし…。

入尾:ええ!?ではどうやって、今の読者の好みをつかむのですか?

許斐:話題作と謳われている作品が「なぜ今、人気なのか」を分析しますね。そして、その疑問に対して自分なりに結論を出す。この繰り返しをすることで、今の流行などを把握しているのかもしれません。

入尾:ちなみにそこから得たものを『テニス』に反映させたことはありますか?

許斐:多分あるはずです。ただ、特定の漫画や映画の「ここ!」みたいなものを、そのまま活用したことはありませんね。私の分析の結果ですと、最近の読者の方々は繊細な心理描写が強い作品を好む人が多い印象があります。「週刊少年ジャンプ」で連載していた時に、たまたま見かけた映画『スパイダーマン3』の告知記事。そこで「スパイダーマンの悪の部分が…!」みたいな煽りを目にして、面白いと思い、『テニス』で海堂を闇落ちさせた記憶があります(笑)。

入尾:そもそもの質問なのですが、映画や漫画などのエンターテインメントを、あまり見ない、読まないのはなぜですか?漫画を描く上でインプットは大切なことだと思うのですが…。

許斐:あくまで私個人の話ですが、「他の作家さんの影響を受けたくない」という気持ちがあるんです。作品に触れると、絶対に何かしらの影響を受けてしまうものなので。言い方を変えると、自分を鎖国状態にしたい!(笑)そうすることで、展開の面白さの純度をさらに向上させるみたいな感じでしょうか。あとは読者の予想を常に裏切りたいという執念で頑張ります(笑)。

入尾:執念という名のこだわりですね!(笑)

許斐:特にアンケート至上主義の「週刊少年ジャンプ」時代は、「常に予想だにしない展開で、読者を驚かせないと!」と思っていました。「だらける回は一切なし!毎週がクライマックス!!」という気持ちですね。あとは読者が予想した通りの漫画を描くことが、すごく嫌なんです。例えばじゃんけんする話を描いていて、読者にグーと予想されて、そのままグーを出す展開だったら、ちっとも面白くないじゃないですか。私はチョキでも、パーでもないものを出したいんですよね。

入尾:そういった展開のアイデアは、普段から考えられているんですか?それとも先生はネタ帳を作っておられるのですか?

許斐:その時々によりけりですね。全く考えていない時もありますよ(笑)。「来週どうしよう!?」みたいな。ただ、アイデアに煮詰まること自体があまりないので、そこまで苦ではないですね。

入尾:煮詰まらないなんて…!煮詰まってしまう新人の私に、何かアドバイスを頂けないでしょうか…!?

許斐:ほんとに煮詰まってしまった時は、自分の持っているアイデアを誰かにたくさん話すことが大切ではないでしょうか。私の場合はアシスタントの皆さんに話をします。入尾さんも知っていますよね?

入尾:そうですね。たまにアイデアに対する感想や意見を聞かれますね。

許斐:そこで相手のリアクションを見れば、自分のアイデアが面白いのかが分かるし、話しているうちに閃くことも多々あるんです。

入尾:私は先生に意見を聞かれて答えている時、参考になっているのかな?と心配になる時もありますけど、どうなのでしょうか?

許斐:入尾さんが聞いてくれることに意味があるんですよ。やっぱり一人で考え込むのとは全然違うと思います。

入尾:一人で溜め込まないことが大切なんですね。

許斐:そうですね。白紙を見ながら一人で考えることほど、辛いことは無いですから。何でもいいから描いて、とにかく喋り始めたらアイデアは出てくるはずなので、新人の方々にはあまり悩みすぎないようにして欲しいと思います。結局は、読む人のことを考えていなければ生まれないアイデアであることが多い。そういった意味でも、やはり常に読者を意識することは、大切なことだと思います。

取材&マンガ 廣瀬ゆい
ジャンプSQ.19に『最弱なボクと最強な彼女』掲載の期待の若手ギャグ漫画家!!