ジャンプSQ.若手作家が聞く「マンガの極意!」星野 桂 先生 & 肘原えるぼ 先生

《6》魅力的な主人公を作るコツは…?

肘原 読者に好かれる「主人公」を生み出すにはどうしたら良いでしょうか?

星野 私にとっても主人公は難しいです。作品の顔になるわけですし、パッと良いキャラクターってなかなか出てこないから悩むしかないんですよね。ただ描き続けてきてわかってきたことは、キャラクターの設定や過去って実はお客さんがつく要素ではないんじゃないかなぁと。昔は主人公がこんな能力を持っていたらカッコいい!とか考えて描いていた時期もあったんですが、結局は主人公の人柄で好きか嫌いかが判断されている気がします。読者が親しみを持てるような人間味を漫画でどこまで上手く表現してあげられるかがポイントですね。人柄を好きになってもらえれば、自然とそのキャラクターを追いかけてくれると思うんです。それで後から、過去や設定に興味を持っていただけるのかなと。

肘原 アレン・ウォーカーはどのように作られたんですか?

星野 最初、アレンはAKUMAという設定で、少年の皮をかぶった女の子だったんです。見た目少年、中身が女性という設定の主人公だったんですが、初代編集さんから例え外見が少年でも、女性のアレンが泣いた時は読者のとらえ方が全然違うと言われたんですよ。「女はすぐ泣くから、女の涙では感動しないよ!」という暴言を吐かれて(笑)。当時は反射的に抵抗したんですが、次第に少年誌で女主人公を描く難しさが理解できたので少年に変更しました。

肘原 アレンは動かしやすいですか?

星野 いいえ。アレンは千年伯爵を描きたいがために作ったキャラクターなので、一番動かしづらいんですよね。伯爵はすごく動かしやすいんですけど(笑)。デビュー前はラビのような元気な主人公ばかりを描いていて、唯一『D.Gray-man』だけがタイプの違う主人公だったんです。アレンの言動は偽善的だし、自分の心を押し殺して生きている子は初めてだったので、連載が決まった時、自分の中でアレンとどうやって付き合えば良いのかすごく悩みました。

肘原 好みの主人公ではなかったということですか?

星野 そうですね。当時はキレイごとばかりを言う主人公が嫌いだったんです。でも自分が構築したアレンは偽善的なことばかりを話し続け、アレンのセリフをアウトプットする度に「何でこの子、こんなことばかり言うんだろう」と思いながら描いていたんですよね(苦笑)。自分のキャラクターなのにお互い気持ちが分かり合えなくてギスギスしていました。

肘原 最初は主人公のアレンに戸惑われていたんですね。

星野 「偽善者=嫌われ者」というイメージが強くて、主人公がそれで良いのかという迷いがあったんですよね。アレンって敵であるノアやAKUMAに対して甘いじゃないですか。八方美人の主人公はどうなのかという思いがあったんです。アレンを好きになってもらえなければ『D.Gray-man』を読んでもらえない。それで長年悩んでいたら、偶然再会した吉田さんに「アレンは最後まで偽善者でいい」とアドバイスを頂き、そこで初めて納得することができたんです。そこからは気持ちが楽に描けるようになりました。だから、アレンに関しては仲良くなるまでに8年くらいかかっています。

肘原 8年…!? それまで編集さんに相談しなかったんですか?

星野 作者の私は打ち合わせで「アレンが嫌いだ」と言うわけにはいかなかったんです。担当編集さんを困らせるだけですしね。当時吉田さんは担当を離れられていたので、雑談中にたまたま話してしまったんです(苦笑)。

肘原 苦手な主人公と粘り強く付き合った結果、今のアレンができ上がったんですね。

星野 自分に都合の良い子を主人公にするのは絶対に良くないと思います。私の場合はアレンが苦手なキャラクターだったので、和解するために彼のことをひたすら考え続けたことが良かったのかなと。なので新人さんには得意分野だけでなく、苦手なキャラにも挑戦して欲しいですね。

肘原 ちなみにキャラクターが動くという感覚はどうやったら身に付くんでしょうか?

星野 キャラクター作りと一緒で、彼らの行動原理が自分の中にストンと落ちてくるまでひたすら時間をかけて考え抜く…でしょうか。近道とか良いヒントを教えてあげられなくて申し訳ないんですが、私はキャラクターのことをひたすら考えて育んでいくと勝手に動いてくれます。なので、どんどん妄想してみて下さい!