ジャンプSQ.若手作家が聞く「マンガの極意!」八木教広 先生 & 賀来ゆうじ 先生

《3》不確定要素がネームを決める

八木:僕の場合、キャラクターは決まりきっていない方が面白いんですよ。キャラデザインもある程度のラフは作りますが、細かい部分は原稿を描く時点で考えるんです。

賀来:自分の中でも不確定なものがある方が面白いとか…?

八木:ええ、それは確実にあります。ストーリーもある程度の方向性は決めていますが、そこに至るまでの流れは担当さんにもアシスタントさんにも話さないし、メモにも取らない。「この結末へ行くのだろうか…」と漠然と思いながら描くんです。

賀来:もしかしたら、それでネームが予定と違う方向に行くことも?

八木:ええ。途中で他に面白い方向が思いついたら、ガンガンそっちに行ってしまいますね。いくら伏線をいっぱい張っておいたとしても、それをナシにするくらい面白い展開があれば変更するというスタンスですね。

賀来:それはとても勇気が必要な描き方ですよね。「自由に描く」って、実際にやるとなるとすごく難しい!

八木:今後の展開を誰にも話さないのも、口にすると自分の中で固まってしまう感じがして嫌なんです。まるでキャラクターが進路に沿って動かされている気がして、ネームで生き生きとしなくなる。単なる駒になってしまうことが嫌なんですね。例え結末が決まっていても、そこへの進み方はキャラクターに任せたいです。

賀来:それは担当さんはヒヤヒヤものですね(笑)。

八木:例えば、『エンジェル伝説』で白滝奶というクレアの原型となったキャラクターが登場しました。彼女のエピソードが終わって退場させようとしたのですが、ネームが上手く作れない。逆にレギュラーに加える方向で考えると、スラスラとペンが進み始めて…。「ああ、この子はここにいたいんだ!」と、ネームの方がキャラに引きずられてしまったんです。

賀来:八木先生のネームって、そこまでキャラが動くんですね!ところでネームはどのような手順で作られますか?プロットを箇条書きにしたり、脚本を書かれる方も多いようですが…。

八木:僕の場合、最初からコマを割ったネームですね。話もキャラも、ネームで全部形になっていくんです。そのせいか、毎回ネームの枚数は膨大になります。例えばネームの一コマを変えるごとに、いちいちコピーをとって見比べたりして作っているので…。

賀来:すごい…そこまでやるものなんですね!!ネームは最初のコマから順に描き進めるのでしょうか?

八木:基本的には頭の中で全体を考えながらですが、毎回色んな描き方になってしまいます。普通に1ページ目から描いたり、引きを決めてから描いたり、途中でいい展開が思いついたらそこを固めてから前後を練り直したり…本当に一話一話違います。だから時間がかかるんです(笑)。

賀来:ネームや作画に充てる期間は大体どれくらいですか?

八木:ネームは『エンジェル伝説』が大体1週間で、『CLAYMORE』が3、4日くらいですかね?作画はトータルで3週間くらい。

賀来:えぇ…!?仰るより全然早い!!

八木:僕はネームを何度も何度も見直すので、あまりに作業が長引くと、その内に何が面白いのか自分でも分からなくなってしまうんです。だから「分かる内に仕上げなければ!」と追い立てられる気持ちがあるのでしょうね(笑)。

賀来:ネームに詰まった時の息抜きはありますか?

八木:うーん、特にないですね。ただ、お風呂に入っていると凝り固まっていた何かが溶けて、上手くいくような印象がありますね。あとはトイレとか。そこで台詞や展開が思い浮かぶこともあります。

賀来:漫画家は結構、お風呂で思いつく人が多いですよね。

八木:シャワーとかもそうですね。緩い滝行みたいに、お湯に打たれていると何か出てくるのでしょうか(笑)。密室で他にやることもなく、ぼーっとできることが大きいのでしょうね。

取材&マンガ 賀来ゆうじ
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