ジャンプSQ.若手作家が聞く「マンガの極意!」八木教広 先生 & 賀来ゆうじ 先生

《4》下描きとペン入れの工夫

賀来:原稿での構図などのビジュアルは、どの段階で考えられていますか?

八木:それは間違いなくネームの段階です。ネームでビジュアルまで考えていて、作画の段階ではほとんど変更はありません。

賀来:原稿での画面作りで、八木先生が大事にしているものはありますか?

八木:まず僕自身がギャグ漫画出身という意識が強いので、読者に分かりやすい構図が第一にあります。台詞や内容が伝わりやすく、見た目もごちゃごちゃしないように。だからキャラの会話シーンも、あまり配置は崩さないようにしています。逆に迫力のある凝った構図となると…結構苦手かも知れません(笑)。

賀来:画面作りで言うと『CLAYMORE』は、とても見やすい独特なトーンの使い方をしていますよね。あのさじ加減はどう考えているのですか?新人にとってトーンって、どこまで貼っていいのか分からないんです。

八木:僕の場合、あくまで絵を分かりやすくするために貼っているつもりです。背景のごちゃつきも、トーンを貼りながら整理したりします。『エンジェル伝説』はちょっとトーンを貼り過ぎな気がしていたので、反省として『CLAYMORE』はそこを抑えようと始めたのですが…やっぱりまだ多いかも(笑)。

賀来:八木先生は漫画執筆で、特に楽しいと感じる作業はありますか?

八木:どれもやっていることが違うので、ネーム、下描き、作画…と、それぞれが独立して楽しく、独立して辛いですね。どれもやっている途中は苦しいけれど、それと同時に仕上がっていく高揚感や満足感もありますし。

賀来:ネームでほとんど決められているとのことですが、作画の段階で執筆が詰まることはありますか?

八木:たまにですが、過去に描いたことがないものが出る時は下描きで苦戦することもあります。その時は8割方できたものをアシスタントさんに渡して背景を進めてもらい、考えるのを後回しにします。あとはペン入れの段階で「もっとよくなるように…」と頑張って直すのみです(笑)。

賀来:連載を続けていくと、やはり執筆スピードは上がりますか?

八木:そうですねぇ…下描きは一番時間が短縮された工程だと思います。勢いで描けるようになるので、続ければ続けるほど早くなる。しかも勢いが乗った方がいい絵になりますし。逆にペン入れは、下手すると長くなっているかも(笑)。自分が絵を描けるようになるにつれ、同時に自分に足りないところも見えてくるんです。…で、そこを補ってクオリティを上げたいがために、どんどん描き込んで時間が足りなくなってしまうという。

賀来:ベテランの作家さんになればなるほど、自分のハードルが上がっていくんですね。

八木:ええ。昔の原稿を改めて見返すと、自分の絵はもちろん、アシスタントの背景も今だったらOKしないかも(笑)。

賀来:目下、僕が作画で悩んでいることなのですが、下描きとペン入れ後の絵のギャップが強く、未だに違和感を覚えるんです。ペン入れを終えて、下描きの鉛筆線を消しゴムで消すと「あれ?もっと勢いのある絵だったはずなのに」…と物足りなさを感じるんです。これって、何か解決策はあるのでしょうか?

八木:ペン入れした絵が、下描きよりあっさりに見えることは僕もよくあります。だから下描きのコピーと見比べて、迫力が足りないようだったらペンの描き込みを増やしたりしていますね。

賀来:下描きと見比べて描くんですか!?そうかぁ…その方法があったんだ

八木:ええ。鉛筆の下描きって線に勢いが出やすくて、特にストーリーで迫力を出したい時は、その印象を原稿に残したい。そのお手本とするために、下描きのコピーは必ず手元に置いておくようにしています。

賀来:これはいいことを聞きました!さっそく僕も導入します!!てっきり「自分がペンに慣れたら、あの下描きの時の勢いが出せるはず」と思い込んでばかりでした。その工夫はいつ頃思いついたんですか?

八木:『エンジェル伝説』の時ですね。北野にもっと迫力を出したかったのですが、絵に自信がなくて…。そこでたまたま取っておいた下描きのコピーに気づき、それを参考にペン入れするようになったんです。

賀来:新人作家は皆同じような悩みがあるのに、なぜ誰も「下描きと見比べる」ということを思いつかないのかと(笑)。

八木:僕は昔から絵に苦手意識があったんです。常に「何とかしよう」と考えていて、それで何でも見比べるようになったのだと思います。

賀来:今おっしゃったペン入れもそうですが、1コマ変えるごとに見比べるネームも、そういった工夫なんですね!

取材&マンガ 賀来ゆうじ
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