ジャンプSQ.若手作家が聞く「マンガの極意!」浅田弘幸 先生 & 濱岡幸真 先生

《5》町の郵便屋さんからファンタジーへ

濱岡 『テガミバチ』の舞台設定はどのように作られているのでしょうか。

浅田 『テガミバチ』の場合、世界を一から全部作りたかったので、可能な限りたくさんのアイデアを出して、そこから選んでならしてきた感じです。例えばその世界に存在する「場所」「職業」「人物」などの文字設定を、一つ一つ考えていきます。もちろん、実際に漫画になると全然別物になったりもしますが。テガミバチの制服も、最初はネクタイがあってフォーマルだったり(笑)。まずは案を出すだけ出して、そして今現在、物語として描かれている部分から掘り下げていくんです。

濱岡 では世界観は、ある程度考えきってからネームに入られたのですか?

浅田 そうですね。変更しながらではありますが。ちなみに『テガミバチ』の世界観はファンタジーにしようと決めてから考え始めましたが、最初は普通の町の郵便屋さんの話でしたね。

濱岡 『テガミバチ』のような壮大なファンタジーを志す新人は、世界観はどこまで考えるべきなのでしょうか?

浅田 新人さんの場合は1本の漫画の中で、描き切れるだけのものを考えればいいと思います。『テガミバチ』の世界観設定は連載用なので、どう広がってもいいように、キャラクターを放り込んで好きに動かせるだけの規模を目指していました。色んな方向に展開できる余地を作るというか…何でも考えておけば、後で色々と使えるだろうと(笑)。

濱岡 町の郵便屋さんから『テガミバチ』に至るまで、どのくらいネームを描かれたのでしょうか?

浅田 今の『テガミバチ』が見えるまで、何ヵ月もかかったと思います。それまでは郵便屋さんのシナリオを何本も書いていたのですが、まぁ、盛り上がらない盛り上がらない(笑)。ファンタジーにシフトした際、バトル要素として鎧虫を出すようになったのですが、バトル漫画をちゃんと描いたことがないので、凄く苦手で…。

濱岡 苦手意識があっても、今の方向に進んだのですね。

浅田 「少年漫画」が好きでずっと描いてきているのに、自分では、本当に少年が喜ぶ作品を描いていないような気がしていたんです。しかもその頃は30代後半だったので、年齢的・体力的に少年漫画に挑戦できる最後のチャンスかも知れない。できるだけ頑張ってみようと決めたんです。

濱岡 ちなみに世界観設定は、町並みや衣装など、現実世界にも通じそうなリアルなものもありますが、作られる際は色々と調べられるのでしょうか?

浅田 そうですね。特に何かというのではなく、ヒントが欲しくて何でも調べます。『テガミバチ』の頃はケルト神話の文献を調べていましたね。参考という程でもないですが、あの世界の単語が面白かったので。

濱岡 読切が好評で、それが長編の連載作になるケースがありますが、読切から長編を膨らませるコツはありますか?

浅田 それは難しいですね!まず読切を描く時点で、先のことを意識してもいけないと思うんです。その1本を本当に面白く作って、読者に「もっと読みたい」と思ってもらえることが重要なので。僕は連載プロットを読切で試すとか、あまり考えたことがないんですよ。特に月刊誌の場合、先の展開を意識するよりは、その1回の面白さ、そして次の1回の面白さ…と作っていくので。だから大きな世界観を想定していたとしても、「その世界にあった一つの話」と考えるようにしてきました。

濱岡 『テガミバチ』は1話完結もあれば、何話もまたがる長編もあります。それらを作る際の意識やテクニックの違いはありますか?

浅田 意識というか、問題となるのはページ数でしょうか。まとまったページがあれば「1つの配達を完了!そして次に…」とできますが、ページが足りないと話を真ん中で分けなければならない。そしてただ分けるだけだと面白くならないので、別の要素を付け足して次回に繋げる…そうするとまたどこかに歪が出るので、そこを調整して…と。

濱岡 続きものでも、基本は毎回の1話で読者を満足させるんですね。

浅田 1本の映画のように、それ単体で読者を満足させたいんですよ。でもページ数が足りないと分けるしかなく、その分、話の最後に引きを作って「さて、どうしよう!?」みたいな(笑)。さらに次の回になると、話の最初に導入要素が加わるので、ますますページが足りなくなって…。なので、描いていく内に膨らんでいくというのは、よくあることだと思います。

取材&マンガ 濱岡幸真
手塚賞準入選「超人 馬場ババ子伝説」でSQ.19で掲載デビュー!