ジャンプSQ.若手作家が聞く「マンガの極意!」浅田弘幸 先生 & 濱岡幸真 先生

《8》漫画を描くように生きている

濱岡 執筆のヒントとして、普段からインプットしているものはありますか?

浅田 特定の媒体やジャンルというよりは、自分の心に引っ掛かるものを大事に取っておくように意識しています。例えばTV番組を眺めていて、ぱっと一瞬でも面白いものがあったらそれをメモしたり。頭の中に、自分にとって面白いものをため込んでいる「自分の冷蔵庫」あって、そこに入っている食材を組み合わせて作っていく感じでしょうか?

濱岡 その冷蔵庫は、今だけではなく昔からの蓄積も含まれているのですね?

浅田 そうですね。時間がなくて新しい食材は何も仕入れていないけれど、冷蔵庫にある残りものでも面白くできそう、とか(笑)。美味しく作れるのであれば、食材は別に古くてもいいんです。

濱岡 では浅田先生の冷蔵庫にはどんなものが入っているのですか?

浅田 漠然としていますが、「自分の感情に訴えかけるもの」です。人でも物でもシチュエーションでも何でも、とにかく自分の心が動かされたものはストックしておきます。感動を分析するのではなく、「感動したこと自体」を覚える感じです。どういった行動やシチュエーションで自分が感動したか…それらを書き留めて残すんです。そのまま漫画に使えるわけではありませんが、やがて形を変え、冷蔵庫の食材の1つになるんです。

濱岡 漫画以外にも、浅田先生は小説の表紙やCDジャケットのイラストも描かれていますね。執筆で漫画と異なる部分はありますか?

浅田 気持ち的には漫画と一緒で、30ページの原稿で描いているものを、1枚の絵に込めているつもりです。たった1枚の絵でも、漫画のように想いやストーリーを込めたい。だから軽めの絵に見えても、僕自身の労力は漫画とほぼ一緒です。イラストのラフを考える時点から、漫画のストーリーみたいに色々なことを考えてしまうので。

濱岡 いよいよお時間も少なくなってきました。浅田先生にとって「漫画」とは何でしょう?

浅田 生活の一部でしょうか。多分漫画を描いていなくても、漫画家みたいに日々生きていると思うんですよ。常に自分の「こころ」に来るものを探したり、周囲の面白いものを観察したりとか。実は『I'll』から『テガミバチ』の間、2年間くらい連載をしていなかったのですが、休んだ記憶もほとんどないんですよね。原稿は描いていなくても、頭の中が連載中と同じように動いていたんです。何といったらいいのか分かりませんが、漫画を描くように生きているのだと思います(笑)。

濱岡 それでは最後に、漫画家を目指している新人にメッセージをお願いします。

浅田 「自分の中にあるものを、自分の言葉で描く」ことを大事にして欲しいです。逆に絵の方は、描いていれば勝手に上手くなります。自分は何を描きたいか、何を表現できた時に気持ちよく満足できるか…その感覚を大事にして欲しいです。そうすればきっと、読者にとっても「自分の手に残したい漫画」になってくれると思います。

濱岡 貴重なお話を頂き、ありがとうございました!

取材&マンガ 濱岡幸真
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