ジャンプSQ.若手作家が聞く「マンガの極意!」浅田弘幸 先生 & 濱岡幸真 先生

《7》画力向上の秘訣は…現場仕事

濱岡 浅田先生は執筆で、特に苦手な作業はありますか?

浅田 うーん…ルーチンワークが苦手ですね。同じ作業だったり、同じ絵だったり、もっと言うと枠線引きとか消しゴムかけとか。制服の襟についているベルトなんて、同じものばかりでもう描きたくないし(笑)。だから同じ衣装も、描くたびに少しずつ変わったりします。

濱岡 では逆に、描いていて一番楽しいものは何ですか?

浅田 やっぱりキャラクターの顔ですね。ぴったり納得できる表情が描けると嬉しくなります。あとは「何か新しいもの」。それは絵だったりお話だったり演出だったり色々ですが、描いている自分自身がびっくりできないと、漫画は続けられませんね。『テガミバチ』は設定もかなり詰めましたが、自分では結構行き当たりばったりだと思っています。例えば最近出した新キャラのクーちゃんとか、最初はあまり考えていなかった(笑)。

濱岡 「描きたいと思ったから描く」みたいな感覚でしょうか?

浅田 ええ。そして自分で必要性を意識できていないだけで、そこに必ず意味があるとも思っています。よくよく突き詰めて考えると「これは、ここにはまるべき存在だったのか!」とか、想定していなかった形に繋がったりするんです。だから行き当たりばったりにしつつも、「はまる形」を見つける作業は常にすべきだと思っています。

濱岡 浅田先生お勧めの、画力を向上させる秘訣を教えて下さい!

浅田 アシスタントに入るといいと思います。現場でたくさん描くことが、一番の上達方法だと思います。今はアナログ作家が減っているので難しいと思いますが、できれば自分の好きな作家さんの仕事場に入るといいです。それにアシスタントって、自分が描きたくないものや、1人だったら絶対描かなかったであろうものを、たくさん描かされるんですよ(笑)。それがまた勉強になります。

濱岡 浅田先生はどのようなアシスタント経験をされましたか?

浅田 2年半くらい小谷憲一先生(『テニスボーイ』『ホールドアップ☆キッズ』他)のところでお世話になりました。凄い忙しい頃に入ったので休みがなく、描くものも爆発するジャンボ旅客機とか、爆発する船とか…毎回何かの爆発を描いていました(笑)。まだネットがなくて資料が手に入りにくい時代なので、「この車描いて」と写真を渡されても、写っていない部分が分からなかったりして(笑)。

濱岡 ではアシスタント仕事以外で、浅田先生が心掛けられていた練習方法はありますか?

浅田 練習と言うか、日頃の観察だと思います。例えばバスに乗ったら、前の席の人の耳の形や顎のラインを良く見るとか。日頃から、何でもついつい観察してしまいますね。そして漫画って、「知っていて描く」のと「知らないで描く」のでは全然違うんです。知らないと写実的に描くだけですが、知っていると、そこから一歩進んで漫画的な表現も浮かぶようになります。あとは技術面としてパースをしっかり学ぶと、それを使って色んな面白い絵が描けるようになります。自分だと3点パースが気に入っているので、それを中心に練習しましたね。

濱岡 ところで浅田先生のベタは独特で、掠れて動きがありますよね。あれはどのように描いているのでしょうか?何度も真似しましたが、全然あの味が出なくて…。

浅田 そんなところまで注目してくれるなんて…ありがとうございます(笑)。でもあれは筆ペンでガーっと塗っているだけです。新品だとあまり掠れないので、使っている内に薄くなってきた筆ペンをベタ用にストックしているんです。ただ、塗っている内にはみ出すので、マスキングをしないと大変なことになりますが。時間がない時はアシスタントさんにお願いすることもありますが、凄く綺麗に真っ黒にしてきて…(笑)。もっと掠れさせて…とか言いにくくて。

取材&マンガ 濱岡幸真
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