ジャンプSQ.若手作家が聞く「マンガの極意!」鏡貴也 先生 山本ヤマト先生 降矢大輔 先生 & アラカワシン 先生

《2》連載開始、『セラフ』チーム始動!

アラカワ 連載前、1年半もネームを繰り返すというのは、どんな気分なのでしょうか?

降矢 うーん、僕の中に残っているのは、涼しい顔をして鬼のようなボツを出す前担当編集の印象だけです(笑)。でも不思議と打ちのめされることはなかった。
鏡 「第1話で負けたらお終い!」という感覚が僕らの中にあって、やり直すことについては抵抗はありませんでした。企画の練り直しもどんどんやっていました。先ほども言いましたが、「ちょっと良くなった」は僕の中では全然良くない。全部やめて新しいものを作った方がいい。ものを作る際の心持ちとしては「ちょっとしか良くないなら、全部やめる」です!上辺だけ直しても、元々あった苦しい部分は残ったままなんですよね。

アラカワ そこまで思いきって修正するのですね。

鏡 そしてようやく連載が始まったと思いきや、第2話の打ち合わせで担当が今の担当編集に変わってしまって…。しかも現担当編集は、いきなり『セラフ』という作品自体に駄目出しをし始めて(笑)。でもその時僕は「凄くやる気のある担当さんが来てくれた!」と思い、『セラフ』がもう一段飛躍できる機会を貰えたと感じました。

アラカワ その逆境も成長の機会にするのですか。

鏡 元々『セラフ』は第1話と第2話の内容が激変することを予定していました。大事なのは、そこで奮起できること。そもそも担当さんが第一読者で相棒なら、その後ろには何十万人もの読者がいるんです。担当さんに駄目出しされて「あいつは分かっていない」とぼやくようでは、多くの人に受け入れられるわけがない。僕は初動で揉めることこそ価値があると思っています。だって、揉めるのは愛があるから。…とはいえ僕の脚本が慣れないせいで、降矢さんにいっぱい描き直しをさせてしまったわけですが…。
降矢 その苦労のお陰で今の『セラフ』があると思えば!…そう言えば鏡さんの脚本は、バトルシーンの書き方が大分変わってきましたね。最初は場面への指示が「血が舞う」「血が舞う」「血が舞う」…とか(笑)。今はかなり細かく指定を入れてくれますよね。

鏡 あと、降矢さんが僕の脚本に慣れて、僕も降矢さんのネームに慣れたことが良かった。「降矢さんだったらこう描くだろう」と、お任せで書ける部分が出てくる。実は途中で分かったのですが、僕と降矢さんは好きな映画が結構被っていて、それで通じるものがあったのかも。僕はネームは切れないけれど、「ここはあの映画のあのカッコいいシーンっぽく」と思って書いていたら、降矢さんも同じようなイメージで想像以上のネームを切ってくれる。そして山本さんはというと、そのネームをさらにカッコよく…と、お互いの職域が交わらないところで頑張っている。これが『セラフ』の強みなのでしょうね。
降矢 普通の作家が一人で原作・ネーム・作画をやっているところを、3人の分業でやっていますから。でも3人とも、時間を目いっぱい使っていますよね(笑)。僕はネームだけで1ヵ月使っていて、山本さんも作画に丸々1ヵ月使って、凄い贅沢!鏡さんは、原作以外にも小説とかアニメ関連とか、他にも色々な作業を詰め込まれていますが。

取材&マンガ アラカワシン
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