ジャンプSQ.若手作家が聞く「マンガの極意!」鏡貴也 先生 山本ヤマト先生 降矢大輔 先生 & アラカワシン 先生

《7》人を動かすための「世界観」!

アラカワ 世界観や物語の先は、どこまで考えてから書かれますか?

鏡 「世界はこういう風になる」みたいなものはあるけれど、基本は人を描きたいので、人をどう動かすかが重要だと思っています。特に『セラフ』はグレンの物語の先に優たちの物語が繋がっているし、グレンの物語も終わっていないので、こうした人が連なった物語をどこで区切るのか、と。とはいえ吸血鬼がどのように生まれたのか、「終わりのセラフ」とは何で、世界はどうなっていくのか…とかは、ほぼほぼ決まっています。ただ、それに拘束されたくないし、決定というわけでもありません。

アラカワ 新人が壮大なファンタジーを描こうとしている場合、どこまで設定を詰めて描き始めればいいのか、迷う人も多いと思うのですが…。

鏡 もしそれで詰まったりゴチャゴチャすると思ったら、考え方を変えて欲しい。壮大なファンタジーも身近な街角物語も、人が人に届ける人の物語です。だから、人を描くことに終始すればいいと思います。僕は世界観を見せる作品を作りたいと思ったことは一度もなく、人を一番華やかに、シンプルに見せられる世界とは…と考えます。『セラフ』の世界が終末を迎えているのは、優ちゃんやグレンの葛藤や執着や生きる理由を叫ぶ瞬間を、一番見せやすい世界だから。誰を描きたいのか、何を描きたいのか、このキャラクターが一番輝くのはどんな舞台設定か…。世界観は人間に寄り添うべきなんです。

アラカワ 設定ノートを作るより、人間を描いた方が早いし面白いというわけですね。

鏡 その時代を知るには、歴史年表を調べるより「ナポレオンとはどういう人物だったのか」の方が分かりやすいですよね。人間が時代を作るんです。

アラカワ 『セラフ』は漫画と小説で展開していますが、優とグレンでは、どちらが先に生まれたのですか?

鏡 優ちゃんかなぁ…。でもそこにはグレンも一緒にいました。あと、ミカがお兄ちゃんで、グレンの役割を担っていた案もありましたね。グレンとミカは、一つのキャラから分離したような気もします。そもそも最初の『セラフ』は、山の祠を蹴った少年が妖怪に祟られて、そして13年後…というのを、『妖怪ウォッチ』が流行る前に書いていたんです(笑)。

アラカワ 今と大分違いますよね!?

鏡 そういうものです(笑)。作品って、第1稿そのままに行く人はあまりいないと思います。でも今思うと、妖怪ものでなくてよかった。海外にも届けたいので、吸血鬼と日本刀は絶対に入れたかった。
降矢 第1話が固まった後も、脚本が長いから3話に分けようという案がありましたね。鏡さんは1話に収めることを主張して、今の形になりましたが。

鏡 優とミカの離別をどうしても第1話に入れたかったんですよ。そして第2話はガラッと内容を変えて、新たな読者も入れるようにしたかった。一つの話で2話分稼ぐなんて横綱相撲はやりたくなかったんです。多分「SQ.」読者は僕のことなんか知らないから、最初の話で面白いところまで見せないと。

アラカワ そして第2話の雰囲気をガラッと変えて、連載第1話が2回あったような印象になりましたね。

鏡 そう!両面1話みたいなイメージです(笑)。

取材&マンガ アラカワシン
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