ジャンプSQ.若手作家が聞く「マンガの極意!」鏡貴也 先生 山本ヤマト先生 降矢大輔 先生 & アラカワシン 先生

《5》ネームの肝は「P」を押さえる!

アラカワ 降矢先生のネームは非常にしっかり描かれていますよね。脚本をネームに起こす時のポイントを教えて下さい。

降矢 僕の場合、ページ調整は結構大雑把に割り振っていますね。最初の30ページは勢いでガーっと描いて、残りの15ページくらいで、上手くページ数に収まるように調整する感じです。作業としては、鏡さんが作ったト書きの脚本を読んで、そこに「ここからここまで1ページ」と、区切り線を入れて決めています。
鏡 僕は脚本を書く時、見せ場とか名シーンとか、自分の中で「ドヤッ!」ポイントを決めているんですよ。ある機会に降矢さんが書き込みをしている脚本を見たのですが、僕のポイントと同じところに降矢さんが「P(ポイント)」マークでチェックを入れていて、凄く嬉しかったですね(笑)。

降矢 「P」マークは『紅』の頃からやっているんです。自分で読んだ印象から、その話のポイントとなる部分に入れるみたいな。あれがないと見せ場を外しまくっていたかも(笑)。
鏡 三馬力で書いているから、脚本もネームも作画も、それぞれしつこいくらい決めポイントを作ろうとしているんですよ。「そんな表情だけのコマまでキメにするの?」みたいに(笑)。ただの集合シーンなのに、みんなちょっとずつ手を入れて工夫したりして。

降矢 これは『セラフ』システムの凄いメリットですよね。他の作家さんに悪い気がするくらい。

アラカワ ネームはポイントや配分を決めたら、頭から切り始めるのですか?

降矢 そうですね。脚本をページ数で区切ったら、あとは順々にネームにしていきます。「P」は基本的に後半の大ゴマになるので、ある程度ページに余裕を持たせていれば間違いはない感じですね。

アラカワ 降矢先生のネームは絵までしっかり描き込まれていますが、構図はネームで決め込まれているのでしょうか。

降矢 そうですね。山本先生が作画に集中しきれるように、ラフに近い段階まで描くようにしています。

アラカワ 『セラフ』のような、見やすいネームを描く極意を教えて下さい。

降矢 うーん…ネームって描き慣れてくると、遊びゴマを適度に入れられるようになってくるのですが、それがあると読者が疲れないんですよ。昔から同じ内容の漫画があっても、読みやすい漫画と読みづらい漫画だとアンケートや売り上げが全然違う。だからまずは読みやすく…と自分に言い聞かせて描いています(笑)。

アラカワ ずっとシリアスで緊張しっぱなしだと、逆に読みづらいんですね。

降矢 それと読みやすい漫画って、途中のページをパラッと開いても、気づいたら読み始めてしまうところがありますよね。雑誌の場合、多くの人は丁寧に最初から読むのではなく、全体をパラパラっとめくって眺めますよね。そこで興味を持たれるようにする感じでしょうか。見開きに1つは気を引くような大ゴマを配置しておくと、とっつきやすさが大分変わってきます。あと、今気を付けているのは画面にキャラを増やす過ぎないことと、コマ数を減らすこと。これも読みやすい画面作りということで。
鏡 僕が降矢さんのネームで好きなところですが、降矢さんって決めゴマに入る前に、一旦カメラを引きますよね?

降矢 アップばかりだと読者が疲れるし、引くことによってメリハリがつくんですよ。でも引きのコマは画面に入るキャラの数が増えるので、そのたびに「山本さんは大変だ」と、申し訳なく思ったりもします(笑)。

アラカワ 降矢先生は『紅』と『セラフ』ではネームの切り方は意識して変えていますか?

降矢 特に変わらないと思うけれど…『紅』の頃は慣れていない面もあって、試行錯誤することが多かった。ただ『紅』は出てくるキャラが少なかったし、1話ごとに「誰々が主人公の回」みたいなものがあったので、描きやすくはあったのかも。『セラフ』は常に10人とかメインキャラが出てくるので。

取材&マンガ アラカワシン
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