ジャンプSQ.若手作家が聞く「マンガの極意!」和月伸宏 先生 & 中田貴大 先生

《3》「閃く」ための執筆術!

中田 和月先生の毎月の執筆スケジュールを教えて下さい。

和月 まず原稿が上がった後は2~3日を完全オフにして、その後、担当と打ち合わせをして次の話のネームを始めます。1週間後、ネームができるできないに関わらず、スタッフに入ってもらって作画を始めます。大抵はネームは完成していないので、描ける部分から進めて、残りのネームは夜にやる感じです。作画期間は3週間くらいで…結局1ヵ月をほとんど使うことになってしまいますね。

中田 やはり作画終盤は睡眠時間を削られますか?

和月 終盤は少しずつ睡眠時間を削って作画に充てますが、身体が持たないので、徹夜するのは最後の1日だけ。週刊連載の頃は、ほぼ毎週最後の2日は寝ていない状況でしたが、それは若かったから!(笑)

中田 では、和月先生のネームの作り方を教えて下さい。

和月 まずは頭で考えます。それこそネーム期間は四六時中、頭の中でネームが動いています。そして描きたいことが漠然と見え始めたら、ノートに雑感という形で文章で書き出すんです。手を動かす内に各シーンが見え始めて、話を作る材料ができていきます。材料がある程度揃ったら、担当と黒碕先生と打ち合わせをします。

中田 プロットに入る前に打ち合わせをされるんですね。

和月 打ち合わせで「今こういうアイデアがあるけれど、ここに迷っている」とか話をする内に、今度は大体のプロットが見えてくるんです。そこから台詞の流れを脚本のように書き出し、プロットを作るんです。最近だとシーンごとに付箋に分け、順番を入れ替えて検証しながら描くことが多いですね。…で、脚本が固まりそうになると、いよいよコマ割りを始めます。

中田 和月先生は文章で考えられる時間が多いのですね。

和月 自分の場合、文章にした方が問題も見えやすいんですよ。そしてできるだけ手を動かし、人と話すようにしています。特に打ち合わせは相手に考えていることを説明する行為なので、自分の理解が深まって、アイデアが浮かぶことも多いんですよ。だから自分にとって打ち合わせは重要です。もちろん作家によっては、全く逆のタイプもありますが。

中田 一人で思い悩むより、まず動く方が良いのでしょうか。

和月 自分は「悩む」という行為は、面白さに直結しないと思っています。悩む時って大抵は気になったり、引っかかったりする箇所をうまく見せようと詰まる時ですよね。読者を惹きつける「面白さ」とはちょっと違う。だから悩むことに時間を費やすくらいだったら、面白さを「閃く」ことに費やしたい。あくまで自分の感覚ですが、閃きが漫画を面白くすると思っています。

中田 その「閃き」とはどこから生まれるものでしょうか?やはり映画を観たり、本を読んだりとか…?

和月 そういう時もありますが…実はある本で読んだのですが、アイデアを閃くには手順があるんです。まずは「こういったものを描きたい」という指針を決めること。次にそれを描くための材料を集めること。『剣心』でいえば幕末・明治の時代設定などの資料と、もう一つは「自分はこんなものが面白い!こんなものが好き!」という、作品に捕われない自分ならではの材料。

中田 作家の意図や趣向も材料なんですね。

和月 そして材料が集まったら、今度は練ってひたすら考える。考え抜いて考え抜いて……そしてここが重要で、充分に考えたら一旦寝かせるんです。その間に他のことをやったりしていると、ある時ふいに閃くんですよ!

中田 なるほど!熟考して一度離れることが大事なのですね。

和月 もちろん、その閃きが本当に面白いものか、改めて検証しないといけないのですが。よくありますよね。「面白い!」と盛り上がっていたものが、後で見ると「何だこれ…」となったり(笑)。

中田 確かに!(笑)

和月 自分としては、完全に新しいアイデアというものはほぼなく、材料の組み合わせで生まれるものと思っています。そして面白い組み合わせは、無意識の閃きで行われるもの。頑張っても自分ではコントロールできない。ただ、手順を踏めば閃きやすくなるので、自分で環境を作るようにしています。あと、追い詰められた時も脳がフル回転しているせいか、結構閃きますね(笑)。

取材&マンガ 仲英俊
『かなの一筆』『妹ひえらるきあ』でSQ.19掲載の俊英…!