ジャンプSQ.若手作家が聞く「マンガの極意!」内藤泰弘 先生 & 川崎 宙 先生
《3》内藤漫画の核となるものとは…!
内藤 そうですね。僕は映画が好きなのでほとんどのインプットは映画からになります。映画から得るものといったら、僕の場合はシナリオワークですね。特にハリウッド映画は三幕構成(※設定、対立、解決の三幕で成り立った脚本構成のこと)がしっかり組まれていて、それは漫画でも凄く参考になります。
内藤 ええ。海外のコンベンションに呼ばれることも多いので。どちらかというと観光地より地元の人が行く飲み屋とか、スーパーとか、生活に密着していたり怪しげだったりする所に行きたがります。以前、ドイツのハンブルグに行ったのですが、着いてみるとあそこ港町のせいか凄えガラが悪くて(笑)。まあ自分が宿代ケチったせいもあるんですが、予約していたホテルがポルノショップの2階だったりして大概ヤバかったです。狭い部屋で若干ヘコみながらガイドブック眺めてたら、数駅先にレーパーバーンという歓楽街がありまして。「世界で最も罪深い1マイル」なんて呼ばれ方をしてると知って矢も盾もたまらず飛んでいきました。
内藤 個人的には、レーパーバーンは道路が広くて瘴気が上に抜ける感じがして、暗さがなかったですね。新歓コンパっぽい学生がウェーイとか騒いでるし。新宿歌舞伎町の方が、狭い分よっぽど怪しい空気が籠っていますね(笑)。ただ、こうした体験は漫画に活かされるので、死なない程度には冒険してみるのも必要かと思います。
内藤 漫画は広く浅くというよりは、特定のものを重点的に買うタイプです。自分の好みに合う作品を見つけたら、その作家さんの過去の単行本までまとめ買いします。同人誌を描かれている方だったら、それも探したりして。この前は溜まっていたうさくん先生の本を死ぬほど買いました(笑)。
内藤 もちろん話題作は、できるだけ触れてみるようにはしています…が、やはりどうしても自分に合う、合わないは出てきますね。なので、流行物の勉強は手薄かもです。流行を意識していないというか、自分自身がその良さをちゃんと実感しないと、漫画で出すべきではないと考えています。逆に「あれはいい!」と僕自身が夢中になれたら、自然に要素を取り入れていくんじゃないでしょうか。
内藤 ええ。「流行っているから、これを出せば皆喜ぶよね!」みたいな描き方は、それこそ読者をナメているとます。良いと思っていないと描けないし、読者もそれを鋭く見破ってきますから。
内藤 読者というか、自分自身が観客として見ている感じです。不特定多数の読者というより「自分と同じ趣味の人は絶対楽しめる!」という観点かも知れません。あとは誰か具体的な読者を想定するとか。「これを描いたらアイツは喜んでくれるかなぁ?」みたいな。
内藤 いえ、担当さんとか友達とか家族とか、実際に知っている誰かです。もちろん「対象読者:中学生男子」みたいな想定ボリュームゾーンというものは、どんな作品にもつきものですが、そんなモヤっとしたイメージを頼りに戦い続けるのは辛いですよね。漫画を描くだけでも大変なのに、さらに雑誌の読者みたいな広い層を想定するなんて。まるで見たこともない魔物の影と戦っているみたいで。
内藤 結局は「自分の好き嫌い」だと思います。先程の話に戻りますが、漫画は本当に自分が良いと思って描き、自分自身もそれの出来を厳しく判定する良質な読者になっていないといけない。誰でも「これは絶対に面白い!」という心の作品が一つはありますよね。「自分はこの作品と心中できる!」みたいな、自分の感動の根っことなるものが。漫画を描くのであれば、それを真ん中に据えずに何を置くのでしょうか?
内藤 映画『スターウォーズ』、とりわけエピソード4です。今見ると実にのんびりした映画ですが、「見た事も無い様なものがめっちゃリアルにそこに在る!」という衝撃を初めて突きつけられました。ライトセーバーとかシートの後ろから出てくる照準器とかガクガク揺れるコクピットとか宇宙船がパイプだらけ油まみれのポンコツだとか、後世に残した描写の発明も大変多い。当時の宇宙船というのは、概ね流線型でキラキラしていたり、とてもクリーンな印象でしたからね。ミレニアム・ファルコン号(※作中の主要人物ハン・ソロの宇宙船)は、僕の中でオールタイムベストメカです。
内藤 もう一つの根っこは映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』です。もしあんな作品を描くことができたら、僕はもう筆を折ってもいいと思っています(笑)。
内藤 僕自身の好みを差し引いても、あらゆる面で凄まじく良質な娯楽作品だということです。まさにお手本のような三幕構成で、メカや小道具や世界観とかディテールも凝っていて、そこに在る感が凄い!しかも見たのが高校2年生というスポンジみたいな時期なので、衝撃がバリバリ入ってきたというのもあります(笑)。
内藤 最近よかったのは映画『インターステラー』ですね。ここ10年で一番遠くまで連れていかれた作品だと思います。あのブラックホールの絵面をIMAXで観られるだけでウットリでした。画ぢからだけで白目を剥くというか、あと千円ぐらいだったら全然持って行ってくれて構わんよ君…!!という気持ちになりました。
内藤 僕のアシスタントにも36、7歳なのに『サンダーバード』を知らないという人がいましたね。日本史に例えるなら大化の改新レベルのマイルストーンなのに…!!(笑)あの作品があったからこそ生まれたものがたくさんあるんです。特撮の開祖的な一作品ですよ。
内藤 いえ、『サンダーバード』は僕の根底にあり過ぎて、そこに足を置いて今立っています、みたいな状態です(笑)。
『強欲家の天職』『林檎飴騒動』でSQ.19に掲載の俊英!
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