ジャンプSQ.若手作家が聞く「マンガの極意!」内藤泰弘 先生 & 川崎 宙 先生

《5》ネーム変更も歓迎のキャラ暴走!

川崎 内藤先生のキャラは振り切れた性格の人物が多いですが、勝手に動いてネームが変わることはありますか?

内藤 よくあります…というか、僕自身がそれを望んでいます。とあるアメリカの有名小説家は構成をカッチリ決めず、敢えて物語の現場に自分が入り込んでいくかのように書いていく方法で、大量の面白い作品を生み出しています。楽しんでるなあと。そんな感じで行きたいですね。

川崎 しかしネームの予定が変わると、話が破綻してしまいそうで怖いですよね。

内藤 確かに破綻することもあります。でもお話というものは、体裁さえ気にしなければ畳むことそれ自体は可能なんですよ。例えば爆発オチとか(笑)。みっともないけれど、終わり以外の何物でもない(笑)。まあそれは冗談としても、キャラの誰かに物語をフォーカスさせて、そのキャラさえ納得させれば、一人のキャラ視点での結末は何とかつきはします。もっとも、それ以外のフォローは皆無なんで色々突っ込まれるでしょうけど(笑)

川崎 そうなると、最初に考えていたテーマが変わってしまうのでは…。

内藤 『血界戦線』に限って言うと元々テーマなんてないので大丈夫です(笑)。僕にとってこの漫画は面白い事が第一であってテーマ性が邪魔になるならふっ飛ばします。例えばK・Kが授業参観をする回(JC第9巻収録「BRATATAT MOM」)なんて、典型的なネームでキャラが暴走した話です。最初に「スナイパー業と授業参観を両立させたら面白いよな…!!」と思って描き始めたのですが、K・Kがどんどん動いて、一体どうやって決着をつけようかと…。

川崎 私はあの話、K・Kがちゃんとお母さんであることに驚きました!

内藤 そこは話を面白くするため、意図的に掘り下げたんです。子供や家庭を大事にしているからこそ、授業参観と仕事が被った時にテンパる訳で。そのテンパる様子を強調するために、家庭環境の描写をしっかり入れたんですよ。

川崎 各話を作る時は、まず最初に面白いシーンが浮かぶのですか?

内藤 そうですね。このK・Kの話だと、トイレから遠隔操作で戦闘しているシーンとかかな。で、彼女にそこまでさせるには?…と考えると、子供に対する愛情を見せておきたい。だからあの話は「家族愛がテーマ」とかではなく、単にK・Kを面白くテンパらせたかっただけです(笑)。そのために話を掘り下げるんです。いわばジェットコースターの、急降下前の登る行程みたいなもので。緊張を高めて高めて、準備が整ったらあとは落とす…!!

川崎 先程の「キャラがまずあり、世界観が奥行」というのはそういうことなんですね。

内藤 そうです!キャラの周囲の状況は、キャラ自身を面白く見せるための道具だと思ってやっています。

取材&マンガ 川崎宙
『強欲家の天職』『林檎飴騒動』でSQ.19に掲載の俊英!