ジャンプSQ.若手作家が聞く「マンガの極意!」内藤泰弘 先生 & 川崎 宙 先生

《7》師匠は世にある漫画作品!

川崎 内藤先生は会社員から漫画家になられたそうですが、周囲から反対されませんでしたか?私の周りだと結構挫折する人もいて…。

内藤 僕も辞める時、周りからはチクリチクリと言われました(笑)。でも当時はバブルが弾けた頃で「サラリーマンも一生ものではない」みたいな空気が漂ってきて。さらにその頃に投稿で賞をもらい「自分の漫画は全く見込みがないわけではない」と分かり、そこで踏み出せました。今思うと、当時からその10年後も会社勤めをしているイメージが湧かず、漠然と「いずれは漫画界に出るのだろうな」という感覚を持ち続けていたのだと思います。

川崎 私はずっと賞の最終候補止まりでしたが、内藤先生に審査された時に佳作に選ばれ、親も説得できました。なので今日はそのお礼も言いたくて!ありがとうございました。

内藤 いや、それは純粋に川崎さんの実力です。ぜひ自信を持って下さい。

川崎 内藤先生は考査を細かくたくさん書いて下さったので、すごいありがたかったです。でも、審査員は実はかなり大変だと伺ったのですが…。

内藤 新人の原稿はまだまだ荒削りで、思い入れの強さがバランスを損なわせていたり、描きたい事が多過ぎて焦点が絞れてなかったり、途中から興味が別に行ってしまって一貫性が無かったり、ツメが甘くてご都合主義に落ちいってしまっていたりと、読むのにけっこう力が必要なんですよ。いい意味では才能の原石ですが、悪い言い方だと読者を乗せきれない技法の弱さの表れだったりして。だから安定しているプロの作品を読むより、遥かに疲れます。編集さんはこれを100本も読むのか…と(笑)。でも一本描くことがどれだけ大変な事かは身を持って知っているつもりですので、その込められた熱量にはしっかり応えたいと思っています。

川崎 私は読者に人気の出るキャラが出なくて悩んだり、編集部のコンペが通らなくて落ち込んだりとか、新人の苦労の真っ最中です。内藤先生はそういった経験はありますか?

内藤 僕のデビューはいきなりゲーム雑誌「ファミリーコンピュータMagazine」(徳間書店)で『サムライスピリッツ』のコミカライズの仕事からでした。一発目から実戦です。同人誌で知り合った編集者の方々に、自分から売り込みに行ったのがお仕事に繋がったというか。道のりがいわゆるジャンプ作家と違うので、新人賞の仲間みたいな存在はほとんどいないんですよ。だからコンペについての苦労は、実はあまりよく分かりません。

川崎 内藤先生は師匠がいたり、担当さんに教わったりとかではなく、独学で作品を作ってこられたんですね。

内藤 そうですね。世間には面白い漫画が溢れているので、それが師匠だと思っています(笑)。

取材&マンガ 川崎宙
『強欲家の天職』『林檎飴騒動』でSQ.19に掲載の俊英!