ジャンプSQ.若手作家が聞く「マンガの極意!」内藤泰弘 先生 & 川崎 宙 先生
内藤 物語を毎回ゼロベースでセッティングできる作品を描きたかったからです。漫画というものは、最初から結末まで描くと「漫画力」が上がると思っています。45ページの作品を1本描くより、16ページの短編を3本描いた方が経験になる。物語を終わらせるという作業は、自分の中に一つの漫画の「型」を作ることでもあるんです。『トライガン・マキシマム』が終わって漫画力をもっと上げたいと思い、毎回結末がある読切形式にしたんです。
内藤 物語の型とは、無数の先人たちが作ってきたものです。『ドラゴン桜』の三田紀房先生が仰ってましたが、どの型にもはまらない荒野を切り拓くなんて、それこそ1万人に1人くらいの天才じゃないとできません。だから作品を作るなら、これを利用しない手はない。まずは奇をてらい過ぎず「舗装道路を走れ」と(笑)。
内藤 僕が映画の三幕構成を勉強して面白かったのは、どんなバリエーションの作品も、ほとんどが法則に従った型の元に書かれているということ。例えばある同一ジャンルの映画を10本立て続けに観ると、物語の出来事や転機が、大体同じ比率の時間帯で訪れるんですよ。それこそSFでもサスペンスでもホラーでも恋愛ものでも。だから漫画の作り方が分からない新人は、「三幕構成のお話なんていつでも描けるぜ!」と言えるように、一度は型に則って描いてみるといいと思うんです。それに実際描いてみると、型の中でも個性はちゃんと出るものですから。そして本当にいつでもスラスラ書けるようになった場合、ガチで一生食えます(笑)。
内藤 『SAVE THE CATの法則 本当に売れる脚本術』(ブレイク・スナイダー)という解説本がお勧めです。三幕構成をすごく分かりやすく教えてくれるんです。ただ「こんな考え方もあるんだ」みたいに、軽く読んだ方がいいかも。こういうのは迷った時に参考にする、所々に立っている旗程度に考えておくのがいいです。そうしておくと、漫画を描いていて「もう序盤を過ぎたのに、なかなか事件が起こらないなぁ」とか、感覚的に全体構成に注意できるようになります。
内藤 もの凄~く大雑把にいうと「主人公がいて、ゴールがあって、そこに上手く到達できない状況が続く。ようやくゴールに行くかと思いきや…違うオチに着いてしまう!」というのが基本でしょうね。割と盲点ですが、ゴールに着かない方がいいんですよ(笑)。あるいは着くにしても、最初の予定とは完全に別の道のりを辿るとか。そんで自分が本当に言いたい事はその違うオチの方に込めるとテーマっぽくなります。
内藤 作品によってはベタな展開を期待されるものもありますが、その場合はベタの結末に行く前に一度、思いっきり読者の予想を裏切るといいです。読切を描いている新人は、そこを意識するといいかも。
内藤 分かりやすいのは、ライバルとか時間制限とか、スムーズにゴールに行けない障害を配置すること。特に時間制限をつけると、登場人物は準備不足でも今すぐ動かざるを得ない。あとは主人公たちが何かを「手に入れに行く」のではなく、大切なものを「奪われた」ことを動機に据えるとか。
内藤 人間って自分のものを奪われると、自然と取り返そうとするんですよ。それが「どこかにある宝を探しに行こう」だけだと、別に明日でもいいや…となってしまいますし(笑)。
内容 そういった条件はキャラが動きやすいと同時に、物語で集中すべきポイントがはっきりするので、何より読者が分かりやすい。『血界戦線』も、最初の数ページで「どれだけレオをヤバい状況に追い込むか!」に注力しているところもあります(笑)。
内藤 締切までの時間にもよりますが、結局は考え続けるしかない。テクニック的には、話を自分の中で二択などに持っていく方法があります。「戦いに突入」「邪魔者が入ってバトルなしで解決」みたいな。
内藤 お話がどんな方向にも行けるから迷うので、枝葉を切って自分を追い詰めるんです。ただ、新人にはお勧めできないので覚えなくていいです(笑)。実用的ではありますが、新人は自分を狭めずありとあらゆる可能性を考え倒してゲロ吐くのが仕事だと思うので。
内藤 以前、漫画専門学校の講演で「やる気がない時はどうすればいいですか」と質問されたことがあったんです。その時は「どんなにやる気がなくても、何かしらできることはある。地面の一本線とか、描きやすいキャラの顔とか、いっそ枠線だけとか。まずはそこから手を付けてみては」と答えたんです。でも全然ピンときていない様子で、よくよく聞いてみると創作意欲全般のことでした(笑)。
内藤 遊びに行け!…と(笑)。若い人たちが仕事でもないのに、無理に漫画を描く必要なんてない。描きたくなるまで好きなことをしていればいいんです。そしていつまでも描きたくならなかったらそれまでです。
『強欲家の天職』『林檎飴騒動』でSQ.19に掲載の俊英!
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