ジャンプSQ.若手作家が聞く「マンガの極意!」矢吹健太朗 先生 & 御木本かなみ 先生

《4》コマ割りは見開き単位でインパクト重視!

御木本:矢吹先生はネームはどのように作られていますか?

矢吹:基本的にはデビュー当時と同じ方法で作っています。まず起承転結が分かる単純な文章のプロットを作り、その後に台詞を脚本で書き出して流れを作るんです。『とらぶる』ではこの脚本段階を長谷見さんに担ってもらっています。 一度自分が考えた話の流れを人に文章化してもらうことで、客観的に問題点を見ることができるんです。元々漫画を描くのは好きだけど、ストーリーに苦手意識があった僕が長谷見さんを巻き込んだ狙いはそこですね。長年この作り方をしたおかげでだいぶ客観的な視点が鍛えられて、「前半のここで後半につながる伏線描写が欲しい」とか、「この描写は『とらぶる』らしくない」とか、感覚的に分かるようになりました。この感覚は『迷い猫オーバーラン!』(原作・松智洋)で、原作を漫画に置き換える時にも役立ちましたね。そして脚本を打ち合わせで何度も揉んで、それを元にネームを始めます。台詞や流れもコマ割りの段階でさらに調整。そしてでき上がったネームを2、3回描き直すんです。

御木本:それは同じネームを何度も描き直すということですか?

矢吹:描き直すことで不要なコマが纏められたり、流れが分かりやすくなったりと洗練されていくんですよ。コマを削った分は、そのスペースを女の子の大ゴマに回せますしね。『とらぶる』のストーリーで大事なのは分かりやすさと読みやすさだと思っています。最近はネームの時間が取れないことも多いですが、作画の段階で同じ修正をしています。

御木本:そう言えば『とらぶる』は全体的にコマ数や台詞量が控えめで、絵に集中できるバランスですよね。ネームの時点から意識されているのですか?

矢吹:いえ、逆にネームは情報量重視で、必要そうな台詞やコマはとにかく全部詰め込んでいますね。そこから本当に必要なものだけを残し、純度を高めていくんです。

御木本:『とらぶる』のコマ割りは女の子の全身が飛び出していたり、かなり大胆な形になっていますよね。あれはどのように考えるのですか?

矢吹:自分の場合、コマ割りは見開き単位で考えています。まず見開きに、必ず1枚はインパクトのある絵を入れるように心掛けています。それこそお色気シーンを入れたり、キメのキャラのぶち抜きを入れたりして。大きい絵が決まったら、残ったスペースに前後のコマを割っていく感じです。『とらぶる』はあくまでキャラ漫画なので、なるべくキャラを大きく描きたいので。

御木本:コマ割りで特に参考にされた作品はありますか?

矢吹:参考という訳ではありませんが、和月伸宏先生の『るろうに剣心』はかなり影響されました。意識して読むと、本当にセンスが飛び抜けているんです。変形ゴマのインパクトとか、絵がはみ出すタイミングとか、それを引き立てる小さいコマ配置とか…。新人の頃はシンプルで読みやすいコマ割りを意識していましたが、インパクトを出そうと試行錯誤する内に今の形になっていきました。

御木本:ちなみにネームの時点では、絵の構図は頭の中にあるのですか?

矢吹:一応あります。ただ先ほども言った通り、ネームは情報を優先させているので、コマのサイズも構図もあくまで仮のもの。結局、原稿の段階でほとんど別物になってしまいます。その上なぜか、脚本まで変わっています(笑)。

御木本:矢吹先生の場合、脚本やネームが終わっても常に練り続けるのですね。

矢吹:ペン入れ段階でも他にいい構図がないか考えるし、台詞も良いものが浮かんだらどんどん変更しますね。特に台詞やコマ数は、もっとシンプルに見せられないか常に意識しています。『とらぶる』の場合、1ページにつき5コマくらいがベストだと思うんですよ。コマが多いと絵が小さくなるし。

御木本:見開きの情報量をある程度決めているのですね。

矢吹:あとはページをめくった時、必ずどこかに目に飛び込んでくる絵があることが重要です。ページをめくった時に何かが起こる、しかもそれが毎ページ…これが漫画を気持ちよく読むリズムを作ると思うんです。

御木本:なるほど!だからこそ見開きでのコマ割りにこだわりがあるんですね。

矢吹:あとは…コマ割りというか内容になりますが、普通の会話シーンでも何とか見せ場にしようという努力。普通の会話シーンでも無理矢理エロい角度にしたりして(笑)。むしろ難しい説明場面ほど、絵で退屈させないように頑張らねば!

御木本:それは…例えば第1話で楽園計画を説明していた、モモとリトのお風呂シーンとか!?(笑)

矢吹:そうそう(笑)。どうしても長い説明が必要だったので「それならエロで盛り上げよう!…となると風呂場で会話!裸で!!」…と。最近の「ダークネス編」では、ダークネスの衣装そのものをエロくしてみたりして。これならどんなに真面目な場面でも、自然にお尻を描くことができる。それで読者に「絵のせいで台詞が頭に入ってこない!」と言われたら、それはそれで大成功ということで(笑)。

取材&マンガ 仲英俊
『かなの一筆』『妹ひえらるきあ』でSQ.19掲載の俊英…!